世界中で多くのアーティストにリスペクトされ、日本でもCMや挿入歌に起用されるなど、世代を超えて高い知名度を誇るビー・ジーズ。米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”では9曲が1位に輝き、ビートルズ(20曲)、スプリームス(12曲)に続くグループ歴代3位に、UKシングル・チャート(全英チャート)でも19曲でビートルズ(28曲)に続く歴代2位にランクインし、レジェンドに相応しい功績を残してきた。
輝かしいキャリアの中でも、70年代後期の活躍は目を見張るものがあった。1977年に公開された映画『サタデー・ナイト・フィーバー』のサウンドトラックは、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で24週連続1位をマークして、同年の年間チャートを制覇。本作からは、78年の年間ソング・チャートで2位を記録した「恋のナイト・フィーバー」、同年4位の「ステイン・アライヴ」などのNo.1ヒットが輩出され、TOP5に4曲、TOP10には5曲同時にランクインする大記録を達成した。
『サタデー・ナイト・フィーバー』のモンスター・ヒットから、ビー・ジーズ=ディスコというイメージが定着したが、メジャー・デビュー曲「ニューヨーク炭鉱の悲劇」や、洋楽曲としては日本で初めて1位を獲得した「マサチューセッツ」など、初期の作品はダンス・ミュージックとは対照の、暖かく澄んだフォークやソフト・ロックを主としていた。本作『グリーンフィールズ:ザ・ギブ・ブラザーズ・ソングブック Vol. 1 』は、それ等ディスコ・ヒット以前の楽曲を中心とした、自身が敬愛するアーティストたちとのコラボレーション・アルバム。ソロ・プロジェクトとしては、UKアルバム・チャートで2位を記録した2016年の『イン・ザ・ナウ』以来、4年ぶりの作品で、エルヴィス・プレスリーやウィリー・ネルソンなど、レジェンドたちの作品を生み出した米ナッシュビルのRCAスタジオで録音したことも話題を呼んだ。参加したのはジャンル、世代を超えた才能溢れる面々で、彼等のクレジットからも期待が高まる。
1曲目は、UKシングル・チャートで1位、Hot 100では8位に初のTOP10入りを果たした「獄中の手紙」(1968年)。パートナーには、デビュー20周年を迎えた中堅カントリー・シンガーのキース・アーバンが選ばれ、サビのファルセットが美しいノスタルジックな原曲の世界観を、崩さずとも“らしく”カントリー調に仕立て上げている。
2曲目は、先行シングルとしてリリースされた「ワーズ・オブ・ア・フール」(1968年)。同曲は、1986年にリリースする予定だったソロ・アルバムのために書いたナンバーで、当アルバムの発売がお蔵入りになったことから、34年越しに正式にリリースされたという経緯がある。ゲストには、本作のコンセプトであるカントリーやサザン・ロックを愛聴してきた実力派シンガー・ソングライター=ジェイソン・イズベルをフィーチャー。カントリー・ミュージック、そしてバリー・ギブへのリスペクトが感じられるジェイソンのボーカル・ワークもすばらしく、懐かしい景色を見事蘇らせた。
3曲目は、Hot 100で16位、UKチャートで9位を記録した「ラン・トゥ・ミー」(1972年)。パートナーには、2年前の【第61回グラミー賞】で6部門にノミネートされた女性シンガー・ソングライターのブランディ・カーライルが選ばれている。繊細で優しい雰囲気はそのままに、ブランディ・カーライルのヴォーカルが加わることで、また違う表情・機微を浮き上がらせた。
本作のプロデュースは、そのブランディ・カーライルや前述のジェイソン・イズベル、クリス・ステイプルトンなどの作品で知られるデイヴ・コブが担当。デイヴは、バリーについて「ポップ・ミュージック史上最も偉大なソングライターでありシンガーのひとり。美しい声とメロディーのセンスが健在なのはとても喜ばしい」とコメントし、本作に参加できたことを「最高の名誉」としている。
4曲目はUKチャートで3位、Hot 100では1位を獲得した大ヒット曲「失われた愛の世界」(1978年)。米イリノイ州出身のベテラン・シンガー=アリソン・クラウスが、これ以上アレンジしようのない完璧で甘美な世界観を、持ち前の透明感ある澄んだ歌声で違和感なく焼き直した。
5曲目は、Hot 100で3位にランクインした「ロンリー・デイ」(1970年)。ゲストには、昨年リリースした『ナイトフォール』が来たる1月末開催の【第63回グラミー賞】で<最優秀カントリー・アルバム賞>にノミネートされた、カントリー・グループのリトル・ビッグ・タウンを迎えている。リトル・ビッグ・タウンは、UKチャートで3位、Hot 100では1位を獲得した言わずと知れた名曲「愛はきらめきの中に」にも、“アコギの神様”ことオーストラリアのギタリスト=トミー・エマニュエルと参加した。
6曲目は、Hot 100で15位、UKチャートでは8位を記録したファンからの支持も厚い名曲「ワーズ」(1967年)。間もなく75歳のバースデーを迎えるカントリー界の大御所ドリー・パートンとのデュエットは、長いキャリアを誇る両者だからこそ醸せる説得力、包容力に満ちている。
7曲目は、UKチャートで5位、Hot 100では1位を獲得した「ジャイヴ・トーキン」(1975年)。以降のディスコ・ヒットを連発する引き金となったアップ・チューンで、本作のコンセプトからすると意外な選曲ではあったが、ホンキートンクで流れそうなアレンジにして整合感を重視している。同曲にクレジットされたのは、女性カントリー・シンガーのミランダ・ランバートと、米LA出身の4人組ロック・バンド=ライヴァル・サンズのヴォーカル、ジェイ・ブキャナン。中堅ながら、両者ともベテランに引けを取らないポテンシャルの高さを発揮した。ジェイ・ブキャナンは、10曲目の「ラヴ・サムバディ」(1967年) でもノスタルジックな原曲のイメージそのままに、見事な歌熟しをみせている。
Hot 100で初めて首位を獲得した9曲目の「傷心の日々」(1971年) には、フォークからカントリー、ロックまで幅広いジャンルを網羅する女性シンガー・ソングライターのシェリル・クロウが参加。彼女の曲にも通ずる野性味あるフォーク・バラードに、芳酵なムードを加えて完成度高く仕上げた。「失われた愛の世界」のカップリング(B面)曲「レスト・ユア・ラヴ・オン・ミー」では、ビー・ジーズと同時期に一世を風靡したオリビア・ニュートン・ジョンが、キャパティシの広さをバランス良く収め、ベテランならではの余裕をみせつけている。
4thアルバム『ホリゾンタル』(1968年)に収録された「瞳に太陽を」、バリー・ギブがエスター&アビ・オファリムに提供した「モーニング・オブ・マイ・ライフ」(1967年)の再録もさることながら、女性フォーク・シンガーのギリアン・ウェルチと、夫でギタリストのデヴィッド・ローリングスが参加した最終曲「バタフライ」の美しさには特に心を奪われる。いずれもカバー・アートの“草原の夕日”が目に浮かぶ淡いテイストで、バリー・ギブを中心に生み出された曲陣のクオリティを、時を超えて実感させられた。
2003年にはモーリスが、2012年にはロビンが死去し、ビー・ジーズとしての活動は実質上幕を閉じたわけだが、彼等の原点であるブルーグラスやカントリーをコンセプトとし、こうしてグループの楽曲が息を吹き返したことは、多くのファンや敬愛するアーティストにとって非常に意義のあることだったと思う。昨年に続き世の中は殺伐としているが、こんな時世だからこそ胸に響く曲も多い。
Text: 本家 一成