養殖マダイで日本一の出荷量を誇る愛媛県。ここに、おいしさだけでなく、安心・安全にも力を入れる養殖場がある。宇佐水産が経営する「宇佐パノラマ海洋牧場」だ。小型の漁船で30分ほどかかるこの沖合漁場で2年~2年半かけてマダイを成育している。
当初は、波が穏やかな湾内で育てていたが、1970年に10キロ沖合の漁場に移動した。宇佐水産専務の宇佐光夫氏は言う。
「養殖の理想として、“薄飼いに勝る妙薬なし”という言葉があります。通常のいけすは10メートル四方ですが、うちは20メートル四方で、通常の8倍の容量がある。飼育密度は、通常の半分以下です」
密殖ではないため、病気になりにくく、太りがよく、身が締まるという。「もちろん、種苗(しゅびょう)生産履歴や飼料安全証明書、抗生物質残留検査などのトレーサビリティー(生産履歴)を開示していますし、抗生物質も稚魚のときに1回使うだけです」(宇佐氏)。
餌(えさ)についても格段に改良が進んでいる。「最初はイワシの切り身やミキシングした生餌(なまえ)を与えていましたが、イワシの味が残り、脂肪過多で身に締まりが出なかった。肉質の改善と生餌による海水汚染を防ぐため、84年から使っているのがモイストペレットという餌です」(同)。
宇佐水産が「おいしいマダイ」を実現したのは93年。静岡大学の伊奈和夫名誉教授の「ペプチド化した餌は、うまみ成分のグルタミン酸やイノシン酸が活性化され、タイの摂餌効果が高い」という論文を読んだ同社が、伊奈氏の指導を受け、日本で初めてペプチド・モイストペレットという餌を開発したからだ。
この餌は、真空式の加熱釜にカタクチイワシ、アジ、サバ、アミエビ、イカゴロ(イカの肝臓)などの生餌を入れ、60度の温度で2時間加熱して濃縮したものに配合飼料を加えて作る。真空釜で加熱してペースト状になった生餌は、見た目はあまりおいしそうではない。
「なめてごらん」と宇佐氏に言われ、おそるおそる口にすると、おいしい! イカの肝臓が入っているからか、イカの塩辛に似た味わいだった。「人間が食べておいしいものを食べさせています。従来のモイストペレットに比べると、魚の食いつきや消化吸収がよく、免疫力もつきます」(同)。
※週刊朝日 2013年6月21日号