かつて壮大に執り行われた有名人の葬儀が、コロナ禍で姿を消した。密葬で済ませるだけでなく、死去の公表を遅らせるケースも相次ぐ。AERA 2021年8月16日-8月23日合併号で取材した。
【作曲家の小林亜星さん、音楽プロデューサーの酒井政利さんの写真はこちら】
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山口百恵さんや松田聖子さんら多くのアーティストを手掛けた音楽プロデューサー、酒井政利さん(享年85)が7月16日に亡くなった。以前なら盛大な葬儀がありそうだが、近親者だけで済ませ、お別れの会を開く予定もないという。7月4日に死去したシンガー・ソングライターの中山ラビさん(享年72)も、葬儀は親族のみで、発表もSNSだけ。6月22日に亡くなった俳優の李麗仙さん(享年79)は、息子で俳優の大鶴義丹さん(53)が「家族友人や演劇関係者だけで(葬儀を)行う予定」と発表した。
「亡くなってしばらくしてから発表するケースも増えている印象」と言うのは、芸能ライターのエリザベス松本さんだ。
■最後の晴れ舞台が変貌
例えば俳優の田村正和さん(享年77)は4月3日に死去したが、発表は1カ月以上経った5月18日。作曲家の小林亜星さん(享年88)は5月30日に死去し、発表は6月14日だった。
「かつては『葬儀は最後の晴れ舞台』的な要素があった。小林さんは生前『俺の葬式はやらなくていい』と言っていたと報じられていますが、今は有名人であっても、遺族の『静かに見送りたい』という気持ちが尊重されるようになった。葬儀を大々的にしないなら、早くに発表する必要もない」
こう話す松本さんは、親族に住職がいて、葬儀事情にも詳しい。結婚式は「地味婚」や、式をしない「ナシ婚」が増えるなど簡素化が進んでいるのに対し、葬儀は「人が集まらないのは寂しくわびしい」「どうせなら、たくさんの人に見送られる華やかな葬儀がいい」という考えが根強かった。
「かつて社会の重要なポジションにいた人や経営者ほどそう。花がたくさん飾られ、参列者が列をなす大々的な葬儀がコロナ前は珍しくありませんでした」(松本さん)
遺族が悲しみに暮れる間もなく、葬儀の準備に奔走するケースもよくあった。ところがコロナ禍で、葬儀をめぐる状況はがらりと変わった。