ウクライナ侵攻をめぐり米国とロシアの対立が深まる中、注目されるのは中国の出方だ。中国はどのような動きを見せるのか、台湾有事の可能性はあるのか。AERA 2022年3月14日号は、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・宮家邦彦さんに聞いた。
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ロシアのウクライナ侵攻で、中国はほくそ笑んでいます。なぜなら、ロシアが事を起こしてくれたことで、米国の中国への関心が減ったからです。
象徴的なのは、3月1日に行われたバイデン米大統領の一般教書演説で、中国への言及がほとんどなかったこと。ここ数年、米中対立は深刻になっていましたが、演説ではロシアのウクライナ侵攻に大きく時間が割かれました。この状況が続くと、米国は実質的に二正面作戦を強いられます。
中国は今、米国に対し、「我々はロシアと違って取引の用意がある。だから要望を聞きなさい」と漁夫の利を得ようとしています。少なくとも短期的には中国にとって非常に好ましい国際環境になっています。
ですが、台湾有事にただちにつながることはないと思います。まず軍事的に、中国が台湾海峡を越え、2千万人が住む大きな島を制圧するのは簡単ではない。政治的にも今年は中国で共産党大会があり、3期目を狙う習近平(シーチンピン)国家主席は無謀なことはしない。経済的リスクも大きい。今回の状況をよく見ているはずです。
識者の中には米大統領がトランプだったら侵攻はなかったと言う人もいますが、私は必ずしもそうだとは思わない。
プーチンにとってトランプがやりやすい相手だったことは事実です。おそらくバカにしていたと思う。だから今のようなやり方でテストした可能性は十分にあって、今よりも成功した可能性が高い。なぜなら、トランプは北大西洋条約機構(NATO)を信用していなかったから。バイデンに代わったから今回、NATO結束に成功した。これはプーチンの誤算の一つでしょう。