昨年12月4日、アフガニスタンで活動を続けてきた中村哲さんが、他の現地スタッフ5人とともに銃撃を受けて亡くなった。
『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る』は2010年刊。副題は「アフガンとの約束」。澤地久枝氏が聞き手を務めたロングインタビューで、中村医師の人となりが際立つ好著である。
中村さんが青年医師としてアフガンに入ったのは、虫と高山への興味からだった。農学部で昆虫学をやりたいと思いながらも、父の思いをくんで医学部に進学。登山会の同行医師として入った山岳地帯で医療が届かない地のハンセン病患者に出会う。ペシャワール会の設立は1983年。以来、井戸や用水路をつくり続けてきた。
若い助っ人もいた。<初めは、いろいろ言うんですよ。ボランティアの意義だとか、国際問題だとか、環境問題だとか。「それはあとで話そう。ともかく明日は、あそこの溝を掘ってくれ」と言うと、「はあ」とは言うけれども、役に立たない><「役に立たない自分」というのを発見するわけです>
タリバンのイメージも本書を読むと大きく変わる。現地ではモスクで学ぶ寺子屋のような学校をマドラッサと呼ぶ。<マドラッサで学んでいる子どもを、タリバンというのですが、それはアラビア語です。単数形がタリブ、複数形がタリバン>。<政治勢力としてのタリバンは違うのです>
インタビューは伊藤和也さんが殺害された直後にも行われた。<実は、向うでの殉職者は六人目>だったが、アフガン人職員が殉職した際、日本側は何も言わなかった。引きあげろというが<現地の人の命はどうなる。殉職した五人の人権はどうなる>と抗議したかった。<ほかの国の人の命は考え切れない、その非国際性というのを感じます>
それでもひとり現地に残った中村医師。<「身から出たサビ」です(笑)。私が言いだしっぺですから、言ったものが責任を取らざるを得ない>。自身の訃報を彼はどう受け取っただろうか。非国際性にやっぱり苦笑しただろうか。
※週刊朝日 2020年1月31日号