吉本興業の複数の芸人が反社会的勢力(反社)の会合に出席していた「闇営業」が問題になったのは今年の夏だった。でもさ、反社または暴力団ってどんな人たちなの? 『教養としてのヤクザ』はそのへんの素朴な疑問も踏まえつつ、反社と呼ばれる人々のいまに迫った対談だ。対談者の溝口敦氏はヤクザを長く取材してきたノンフィクション作家、鈴木智彦氏はヤクザ専門誌「実話時代」の編集部に長くいたライターである。

 冒頭、いきなり強烈な話が飛び出す。<最近、ヤクザの新たなシノギ(資金源獲得の手段)として流行っているのが「タピオカドリンク」なんですよ>(鈴木)。ええーっ! <立地も店構えも店員も、まったく暴力団経営には見えないから、客も知らずにタピオカドリンクを買っている>。タピオカは原価が安くてたいへん儲かるらしい。あまりの衝撃ゆえか、第1章のタイトルも<新たな資金源はタピオカドリンクだった>。とはいえ、これはまだまだ序の口。意外な事実が次々に語られる。

 シノギというと思い出すのはテキ屋だが、海沿いの町では密漁も多く、アワビやナマコ、近年ではシラスウナギ(ウナギの稚魚)が狙われる。<禁漁というルールがあるからこそ、ヤクザの付け入る隙が生まれてくる>(鈴木)。来年の東京五輪を控えて建設業や民泊にもヤクザが入り込んでいるし、ダフ屋が活躍する余地も大きい。

 暴力団は博徒、テキ屋、愚連隊(青少年不良団。半グレ)に分類されるが、1992年の暴力団対策法と2010年頃から進んだ暴力団排除条例で生計の道は絶たれ、半面、半グレの特殊詐欺が増えている。<ヤクザは商売ではないんです。無職なんです。だから、“無職渡世”などと言うわけです>(溝口)。<暴力団というのは会社組織のようなものではなくて、ヤクザ一人ひとりは基本的に個人事業主なんです。何で稼いでいてもよくて、暴力団というのは“互助会”みたいなもの>(鈴木)。

「暴力団の資金源に」という言葉の裏にある世界。ヤクザの人権についても考えさせられる。

週刊朝日  2019年12月6日号