
「やりすぎ」は褒め言葉。多くの舞台人から、「自由にやっていい」と言われて育った筧利夫さんは、「時代劇は出るだけで得」と話す。26歳下の監督が撮った時代劇で感じた役得とは?
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俳優にとって、映画の撮影は我慢の連続だという。寒さや暑さに耐え、長台詞を覚えていったのに、それが結局使われなかった理不尽に耐える。それ以外にも、さまざまな忍耐を強いられるわけだが、筧さんには、「役者にストレスのかかっている状況のほうが、観るほうとしては面白い」という持論がある。ジャンルとして、特に負荷がかかると感じているのが時代劇だ。
「時代劇は、圧倒的に支度に手間がかかるんですよ。ちょんまげなんて、準備するのに1時間ぐらいかかりますし、一日着物にちょんまげ姿で過ごすのは、現代人のわれわれにとっては相当きついです。刀を差して袴をはいて、冬でも裸足だから、めちゃくちゃ寒いし。しかも、時代劇のセットの中は、道が舗装されていないから埃がすごい。撮影後にうがいなんかしようものなら、吐き出す水が茶色で、血でも吐いたんじゃないかとビックリします(笑)。そこまで大変だからこそ、時代劇での芝居は、役者にとっては得なことも多いんです」
年末に公開される映画「近江商人、走る!」は、江戸時代を舞台に、大津にある米問屋に勤める丁稚が、悪徳奉行の謀略にもめげず新たな米の取引方法を思いつき、米問屋の借金を返すべく奔走する新感覚のビジネス時代劇だ。筧さんは米問屋・大善屋の主人を演じた。
「時代劇という設定以外は、“普通”の人物でしたね。米問屋の主人で、普通に従業員思いで、ちゃんと商売をやっている立派な人。特にこれといった癖もない。そういう役のオファーが今まであんまりなかったんです。ただ、時代劇のときはなるべく手間がかからないほうがいいので、最初に、『髪形は何?』って聞きましたけど(笑)」
幸いなことに、「近江商人、走る!」では、ちょんまげのカツラを被る必要はなく、頭巾を被るスタイルだった。