早いもので今年も霜月・11月。二十四節気では本日7日から「立冬」となり、暦の上では冬へと入りました。錦織り成す秋が次第に深まり、ぐっと冷え込む朝晩も多いこのごろ。七十二候では「山茶始開(つばきはじめてひらく)」を迎え、民家の垣根や庭にぽっぽっと明るい彩りを添える山茶花(さざんか)の花が開きます。

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初冠雪・初雪・木枯らし1号…「立冬」を迎え冬の気配がちらほらと

冷たい時雨と小春日和とを交互に繰り返し、繰り返し。いつの間にか次第に秋は深まり、都会の街路樹もすっかり色づいてきています。本日、太陽が黄径225度の点を通過した時点から、冬に入る最初の節「立冬」に。「秋分」と「冬至」のちょうど中間となり、錦秋の風景のなかにも、冬の足音が近づいてきました。
「暦便覧」によると立冬とは、“冬の気立ち初めていよいよ冷ゆればなり”。寒冷地では大地が次第に凍り、すでに雪のニュースも届き出し、山々の頂を雪や氷が白く染める初冠雪が、目前に迫った冬の訪れを示しています。
昼間の時間も日々短くなるこの時節。木の葉を散らす冷たい北寄りの季節風「木枯らし」も吹き出します。東京や大阪で最初に観測される木枯らしが「木枯らし1号」。冷たい風にはらはらと葉を落としてゆく樹木の姿に、すっと肺を満たす冷たい空気に、なんとはなしに「今年ももうすぐ終わり」といったもの寂しさと、慌ただしさを覚えます。

七十二候では、「山茶始開」。山茶花(さざんか)が咲き始めました

「立冬」期間中の七十二候の初候、本日から5日間は「山茶始開(つばきはじめてひらく)」。この“山茶(さんさ)”は中国では椿のことで、この山茶を“つばき”と読ませているのですが、実はこれは山茶花(さざんか)であるというのが有力な説。それを主張したのは上田秋成とのことなのですが、日本ではちょうど今時分から、庭木や生け垣として古くから親しまれている冬の花木・山茶花が咲き始め、椿が咲くのはもう少し寒くなってからだからでしょうか。
このように山茶花といえば、晩秋から冬の花と思われていますが、山茶花と薮椿(やぶつばき)が自然交雑した春山茶花(はるさざんか)は冬から春の花。また、真冬に花を咲かせる寒椿(かんつばき)も園芸上では、山茶花に含まれまれることも多いとのこと。
常緑の葉に鮮やかに咲き誇る紅やピンク、白の花を見て、あれは椿?それとも山茶花?と、よく疑問に思ったりするのも、厳密にはなかなか区別がつかないからなのでしょう。
さて、椿と山茶花を区別するためによく言われるのが、その散りざまです。花の形を留めたままコロンと落ちる椿と違って、山茶花の花びらは一片ひとひら、はらはらと風に舞って落ち、地上を点々とはなやかにいろどってゆき、それはさながらピンク色の絨毯のよう。秋の乾燥と冷気によって、朽ちるのも遅いので、散ってからの余韻もしばし楽しめるのです。
ちなみに山茶花は日本原産。もともと本州西端から沖縄に自生していたそうですが、都人の目にはふれなかったことから、古歌には登場せず、園芸品種が出回ってからの近世俳諧時代に多く採り上げられています。野生種の山茶花は、6~7枚の花びらを持つ白色の一重咲きなのだそうです。

松阪市の天然記念物「粥見の山茶花」など全国に山茶花の名所も

東京の亀戸中央公園、京都の天龍寺や龍安寺、本のサザンカロードをはじめ山茶花を愛でに人々が集う名所も全国に。そのなかでも、満開時の眺めの壮観さで有名なのが、三重県松阪市にある天然記念物「粥見の山茶花」。樹齢150年という大樹です。
茶畑にせり出すような粥見地区の山茶花は、氏神さまのご神木として、個人の所有者によって代々大切に守られてきたもの。今では、樹の高さは約12メートル、幹まわりは約1.5メートル。南北に約15メートル、東西約11メートルに枝を広げ、その葉も枝も覆い尽くさんばかりにいっせいに咲く花の盛りの時季は、まさに薄紅色の花のドームのよう。その下に佇み、甘い香りに包まれる夢のひとときを体感しに、訪れる人が多いとのことです。
花の時期は、例年11月上旬から12月上旬。満開のころの麗しさもさることながら、木漏れ日のなか花の一輪一輪がくっきり際立つ咲き始めもよし。音もなく散った花びらが道を見事に染めるさまもよし。訪れたその日、その瞬間の風情で優しく迎えてくれそうです。

冬枯れに向かう時季、生けるものにとって厳しい試練の冬に向かう時季に、可憐に、純朴に、はんなりと咲く山茶花。
手がかじかむように気持ちもちぢんでしまいそうな朝、この花に出会えば、ぽっと心に灯火がともるよう。
寒いからこそよりいっそう花の命の温もりがとてもありがたく、あはれに思える、立冬のころとなりました。