作家、コラムニスト/ブレイディみかこ
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 英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。

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 地方自治体の財政破綻が相次いでいる英国で、次に危ないといわれているのは大学である。教員のリストラ、特定の課程の廃止などで財政難をしのいできたが、破綻寸前と囁かれている大学はいくつもある。

 アルバイトのために講義に出ない学生も増えており、学生たちの10人に1人がフードバンクを利用しているという調査結果もある。外出するとお金がかかるので、交通費などを倹約するために、大学よりも家で勉強するという学生も多い。

 大学の問題の議論となると、woke(社会問題に意識の高い人たち)の活動によるキャンパス内の文化闘争や、海外からの学生の多さなどが槍玉に挙がる。だが、実のところ、留学生は英国の大学にとって貴重な資金源だ。各大学の国内の学生の年間授業料には9250ポンド(約173万円)の上限があるが、海外からの学生には適用されないので、年間授業料は平均で2万2200ポンド(約415万円)になるという。資金難の大学にとって留学生は命綱だ。

 保守党政権は、移民数削減を求める支持者たちの声に応え、留学生の家族へのビザ発給厳格化の方針を発表した。こうした動きの影響もあるのか、英国の大学に来る留学生は減っている。移民政策を厳格化する国に行って勉強しようと思う若者はあまりいないだろう。

 そうなると、国内の学生の授業料値上げの必要性を訴える声が出てくる。授業料の上限は2017年から変更されていない。授業料値上げは、有権者に不人気だからだ。運営コストに窮した大学は、学生寮の家賃を上げたり、教員がストを行わねばならないほど給与を抑えている。このままでは、大学も、学生も、教員も持たない。

 大学崩壊が叫ばれる原因は、wokeのせいでも、留学生のせいでもない。きわめてシンプルに、大学にお金がないからだ。それなのに、それ以外のことばかり注目されるのは、根本原因は解決できないと誰もが思い込んでいるからだ。お金がないのは天災じゃない。長年の緊縮財政のせいだ。中央政府が自らの財政規律を守るというお題目のために、地方自治体や大学の財政を破綻に追い込んでいる。

AERA 2024年2月26日号