ロシアはウクライナ侵攻が長期化し、深刻な弾薬・兵器不足に陥っている。北朝鮮から弾薬、イランからドローン(無人機)などをかき集めている。軍事関係筋は「アフリカなどの第三国からも、旧ソ連製兵器が間接的にロシアやウクライナに流れ込んでいる」と語る。

 これに対し、中国は国連の対ロシア制裁決議に賛成しないものの、ロシアに対する公式の軍事支援には踏み切っていない。

 北朝鮮も中国との関係に苦しんでいる。中国は昨年、7回目の核実験に踏み切ろうとした北朝鮮に圧力をかけたとされる。韓国政府元高官によれば、習近平国家主席が正恩氏に送った親書で「我々は様々な局面で朝鮮を支持してきた。だが、核実験をすれば、我々は朝鮮を保護する幕を下ろさざるを得なくなる」と警告したという。

北朝鮮の“二股外交”

 その後、北朝鮮と中国との関係は微妙な状況が続いている。北朝鮮は今年、朝鮮戦争休戦70周年の7月27日と建国75周年の9月9日を記念した軍事パレードを行った。中国は党政治局常務委員ではない軽量級の代表団を送るにとどめた。

 北朝鮮経済は新型コロナウイルス問題もあり、どん底の状態が続いている。韓国銀行によれば、北朝鮮の22年の経済成長率はマイナス0.2%。20年のマイナス4.5%、21年のマイナス0.1%に次いで3年連続のマイナス成長を記録した。北朝鮮の経済回復のためには、中国からの石油や肥料、建設資材などの輸入拡大、中国人観光客の訪朝などが欠かせない。

 韓国政府当局者は「北朝鮮は誇り高いため、中国に素直に頭を下げたくない。中国が譲歩せざるをえない環境をつくるため、ロシアに接近したのだろう」と語る。北朝鮮は金日成氏の時代から、ロシア(旧ソ連)と中国の間を渡り歩く「ヤンタリ(二股)外交」を行ってきた。

 今回、正恩氏はロシア訪問にあたり、陸海空軍の将校や軍需部門関係者を引き連れた。朝鮮中央通信は正恩氏がロシア製戦闘機や軍艦に試乗する写真を相次いで公開した。別の韓国政府当局者は「ロシアとの軍事協力を匂わせ、中国を慌てさせるのが目的だろう」と語る。

 中国は北朝鮮の核開発を苦々しく思っている。東アジアで日本や韓国、台湾などに核開発の動きが広がる「核ドミノ現象」を警戒しているからだ。青年失業率の悪化や不動産事業の深刻な不況など、内政が混乱するなか、日米韓との対立をあおる動きも避けたい。

 北朝鮮としては中国に「北朝鮮とロシアとの軍事協力が嫌なら、もっとカネを出せ」というメッセージを送ったつもりなのだろう。(朝日新聞記者、広島大学客員教授・牧野愛博)

AERA 2023年10月9日号より抜粋