難民ではないが、様々な理由で帰りたくても帰れない人もいる。2021年3月、名古屋市の入管施設で十分な医療を受けられずに亡くなったスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんも、その一人だ。

衆院法務委員会で入管難民法改正案が可決し、ウィシュマさんの遺影を持って取材に応じる妹のポールニマさんとワヨミさん(右)=2023年4月28日(写真/朝日新聞社)
衆院法務委員会で入管難民法改正案が可決し、ウィシュマさんの遺影を持って取材に応じる妹のポールニマさんとワヨミさん(右)=2023年4月28日(写真/朝日新聞社)

 日本の家族と別れたくない人。日本で経済基盤を確立している人。そして、子どもたち。物心ついたときには日本にいた。自分は日本人だと思っていた。日本で生まれて、日本の学校で学んだのに、なぜ「外国」へ送還されなければならないのか。そう感じている子どももいるのだ。

 朝日新聞の法務省への取材で、2022年末時点における4233人の送還忌避者のうち、日本で生まれ育った18歳未満の子どもが201人いることがわかった。このうち7~12歳が79人、13~15歳は40人。改正案が通れば、この子どもたちも強制送還の対象となる可能性がある。

 日本にいるという選択しかできない人を、3回目以降の申請中であっても強制送還ができるようにする。祖国に戻ったら命の危険がある人を追い返す。5月9日に衆議院を通過した入管法改正案に対して、大きく反対の声が上がるのには、そのような背景があるからだ。

■根拠の数字を隠していた

 そのような中、新たな問題が浮かび上がってきた。

「法案として提出できるレベルなのか?」という「そもそも論」だ。

 5月11日に行われた参議院法務委員会。仁比聡平議員(日本共産党)は、出入国在留管理庁(いわゆる「入管」)が、法案提出の理由の一つとしている数字について質問した。送還忌避者の人数だ。入管は「送還忌避者が多すぎるため、強制送還が必要」という立場で法案を提出している。確かに送還忌避者が多く、収容する人数が増えれば、その運用には多額の税金がかかる。

 入管庁は「送還忌避者の累計」を発表しているが、1年の間には、新たに送還忌避者とされる人がいる。一方で、自ら帰国したり、送還されたり、難民として認められたり、命を落としたりすることによって、送還忌避者の人数からはずされる人もいる。

 仁比議員は、2021年の1年間で「新たに送還忌避者とされた人」と「送還忌避者ではなくなった人」の人数を質問した。これに対し西山卓爾入管庁次長は、「業務上、統計を作成していないのでお答えが困難」と答弁。しかし続く18日の更なる追及で、実は統計が「存在している」ということが明らかとなった。

「送還忌避者が多すぎる」という立法の主要な根拠となっている数字を、入管庁は隠していたことになる。

 全国難民弁護団連絡会議世話人である高橋済弁護士は言う。

 「移民・難民政策というのは、印象に左右されやすいものです。だからこそ、エビデンスベース、つまり数字をしっかりと見てつくらなければなりません。今回、『送還忌避者が多すぎて送還できないという状態が続いているから法改正を』というのが、改正案提出の趣旨でした。しかしそれを明らかに示す数字が出てこない。これはもう、保守・革新、右・左という話ではなく『そもそもこの法案は、何をベースにできているのか』という、立法の根幹に関わる問題になっているのです」

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