ついに高橋幸宏まで新書界に進出か。それもPHP新書。PHP新書というのは、有名出版社新書の中でも編集がテキトーな感じがする(あくまで私見)。中原淳一が雑誌「ソレイユ」を出したと平気で書いてある。それ、「それいゆ」だろう。そんなチェックもできないのか、とふだんならハラを立てるところだが、この本はそんなにハラも立たない。
というのも、これ、高橋幸宏が音楽について語り下ろした本で、全体にゆる~い空気が流れており、そんな固有名詞の間違いなんかど~だっていいような気分になるのだ。そもそも金持ち家庭の息子なのである。軽井沢に別荘があって、そこで合宿して(というよりもたむろって)バンドやってんだもん。金に余裕があるからこその鷹揚さとオシャレさ。品がよく威張らないので、こちらも「いつかこいつを引きずり下ろしてやる!」という気分にもならない。ただ「ああ……負けた」とアキラメの微笑みが浮かぶだけだ。
私が高校生の頃にYMOが流行り、文化祭で「口三味線によるライディーン」をやったものだが、アーティストと客の格差というか、客である私たちのダサさというか、それは単に貧乏およびセンスの無さからくるものだったのだなあ。貧乏人がセンスの良さでのしあがることって、めったにないことなんだ。日本は階級社会なんだよ。
こう、ミュージシャンが音楽について語った内容を無視した書評だと、何か「あえて」の狙いがあるかと思われるかもしれない。そんなことはない。読んで感じるいちばん大きなものが「高橋幸宏ってほんとにステキな金持ち」ってことなんですもの。カッコイイ音楽をつくるのはこういう金持ちなんだ、それならもうその方面はすべて金持ちに任す、というスッキリした気持ちなのである。とはいえここで紹介されている幸宏さんの好きな音楽で、私が好きなのが一つもない。同じ時代に同じシーンのバンド聴いてたのになあ。このすれ違いぶりに感動してしまう。
週刊朝日 2012年10月26日号