何か好きになったらその事柄についての論を読みたい。私はAKBのファンなので、AKBについてならなんでも読みたい。それが共感できる意見であれば「そうだそうだ!」と嬉しいし、思わぬ視点を提示してもらえば驚き、モヤモヤしていたものをズバリとコトバにしてもらうと爽快感を覚える。
 その点でいえば、私にとってこの本はすべてにおいて物足りませんでした。何しろ、メンバーが多いとはいえ、私の推しメン(=ご贔屓メンバー)の名前が一回も出てこなかったからなー、見事に。まあそれはいいとして、のっけから、先日の総選挙開票時における篠田麻里子の「(上がつまってると言うなら)潰しに来い」の発言をホメ讃えている。小林よしのりなど「あの発言は今回の白眉だよ」とまで言っている。バカな。こんなのはヤンキーがよく言う、ありふれすぎてつまらん発言で、つられて渡辺麻友まで目を据わらせて「来年は一位を取る」としょうもない啖呵を切ったりしちゃったという、総選挙全体をダメにした戦犯発言だ。それを論者全員、ガン首揃えて感動している。ええええー!?
 しかし読んでみて、小林よしのりは見直した。小林のAKB好きは本気だ。本気とは、好きなあまり余裕もなくなり、みっともなくなることを厭わないということだ。それに比べると小林以外の(中森明夫はいっちょかみの立場だから除くとして)宇野常寛と濱野智史は「AKBを語る時にかっこつけようとしている」のが見えるので鼻白む。そんなかっこつけてる余裕ないんですよ、と言外に主張してるがダメである。隠しても溢れ出るアカデミックな自己主張が鬱陶しい。
 これなら2ちゃんねるの、メンバー個別スレッド読んでるほうが、蒙を啓いてくれる意見はあんまりないけれども、「オレもうダメ……」というファンたちの真情の吐露が共感できる。かつ面白く、感動すらする。AKB論壇でいちばん良質なものは2ちゃんねるに在り。……言いすぎか。

週刊朝日 2012年9月28日号