日頃、何げなく身に着けている腕時計の中には、時折その歴史に革命をもたらした物語を秘めているものがある。
韓国のスター、ヒョンビン氏とジョージ・クルーニー氏がキャンペーンの顔となったオメガ「スピードマスター'57」もそのひとつ。クロノグラフに革命と革新をもたらし、後にNASAのアポロ計画等、数多くの伝説を生み出した「スピードマスター」シリーズの始まりであり、時計遺産とも言うべき初代モデルへの賛辞を込めた新作が今回、登場した。
■スピードマスター伝説……アポロ13号の出来事
トム・ハンクス氏がジェームズ・A.ラヴェル船長を演じた映画『アポロ13』(1995年米国/ロン・ハワード監督)。この作品は1970年4月に米国NASAが実施した、3回目の有人月面飛行時における事故の模様を忠実に再現した映画だ。船内の酸素タンクの事故から深刻な電力と水不足に陥り、地球に無事帰還するための大気圏再突入の時間はきっかり14秒。船内の装備品は可能な限り投棄、装置も使用不能。この状況下で船長たち3人の命を懸けた運命の14秒カウントを成功させたのが、NASA公式装備品のオメガ「スピードマスター プロフェッショナル」である。
スマートフォンひとつでほとんどの作業ができる現代人から見れば、わずか百数十個の部品で構成される“ゼンマイ時計”が、人類の宇宙開発史に残る事件を支えたとは信じられないだろう。しかし事実である。この事実は現代人にとって“これひとつでなんでもできる”マシンが使用不能に陥ったときの教訓でもある。
オメガ ファミリーの新メンバーとなった韓国のスター、ヒョンビン氏がキャンペーンのひとりを務めるオメガの新作「スピードマスター'57」は、前述の“命の14秒”を遂行したモデルのオリジンである1957年誕生の「スピードマスター」のトリビュートモデル。つまりスピードマスター伝説の始まりであり、時計史においても極めて重要なシリーズの原点モデルへの賛辞だ。
■クロノグラフへ革命をもたらしたオメガの歴史
腕時計の基本中の基本である高精度な時間計測機能は、当然ながら1848年の創業時から続くオメガの重要使命のひとつであり、その歴史は19世紀の懐中時計時代に始まる。やがて20世紀に入ると高精度な計測機能はモータリゼーションや航空、極地探検、天文観測、スポーツ分野等での必要性が一層高まる。これらすべての分野に対応したオメガが懐中時計時代からの研鑽を重ねた結果、1929年に誕生したムーブメントが「Cal.39 CHRO」。
その3年後、つまりロサンゼルス・オリンピックで初の公式計時を担当し、かつ初のダイバーズウォッチ「マリーン」発表の1932年には、これもオメガ初となる腕時計クロノグラフ・ムーブメント「Cal.28.9 CHRO」が登場。さらに1942年にはレマニア社との共同開発で傑作機「Cal.27 CHRO 12C(Cal.321)」が誕生する。
当機は3、6、9時の位置に三つのインダイアル(スモールセコンド、30分積算計、12時間積算計)を備える画期的なクロノグラフ・ムーブメント。この「Cal.27 CHRO 12C(Cal.321)」こそ、時計史においてクロノグラフに革新と革命をもたらした時計遺産である(余談だが、2019年には3次元解析技術トモグラフィーによりCal.321の完全復刻機が発表されたことは記憶に新しい)。
そして1957年、本格化したモータリゼーションとレーシングドライバーやエンジニアのために、ついに誕生したモデルが前述の傑作機「Cal.27 CHRO 12C(Cal.321)」搭載の「スピードマスター」(Ref.CK2915)。オメガのスピードマスター物語は、すべてこの1957年の初代モデルから始まったのである。
当モデルは2013年に「スピードマスター'57」として新たに誕生する(ただしオリジナルのスリーインダイアルではなくツーインダイアル仕様のCal.9300搭載)。その後“1957”デザインは「シーマスター300」と「レイルマスター」とともに、1957年の三部作誕生60周年記念モデル「トリロジー」として2017年に登場(搭載ムーブメントは従来の傑作定番機である手巻き式のCal.1861。なお1957年はオメガや時計愛好家にとっての当たり年。これ以降“〜マスター”というペットネームが、オメガ・コレクションにおいて重要な位置を占めていく)。
■誕生65周年を祝し初代モデルを顕彰する「スピードマスター'57」
そしてオリジナルモデル誕生65周年に当たる本年、コーアクシャル マスター クロノメーター化したアップグレード・モデル「スピードマスター'57」が登場した。
トピックは新開発の手巻きクロノグラフ・ムーブメント、Cal.9906。現代では自動巻きが普通であるのに、その歴史に敬意を表する手巻きである点が素晴らしい。当ムーブメントは、2015年からコラボレーションが続くMETAS(スイス連邦計量・認定局)認定のマスター クロノメーター。15,000ガウスの高耐磁性を誇り、約60時間のパワーリザーブを有する高精度機械だ。ケース径40.50mm、厚さ12.99mmで、特に13mm以下の厚さはスピードマスター・コレクションではかなり薄く、これまで以上の着用性の向上に貢献。オメガは1957年のオリジナルケース(Ref.CK2915)の計測用に、2017年のトリロジー・コレクションで採用した3次元解析技術トモグラフィーを使用した。
ヴィンテージを愛する時計愛好家の心に刺さるスペックであるが、初代モデルのダイアル色を継承するブラックを始め、よりファッショナブルなブルー、バーガンディ、グリーンを含む計4色のダイアルを用意。さらにブレスレットとレザーストラップとの交換で計8種類のリファレンスが用意されている。
今回の新作キャンペーンには、前述のヒョンビン氏に加えてジョージ・クルーニー氏も登場。特にクルーニー氏は元々オメガには家族の思い出があり、長年アンバサダーを務める根っからのオメガ・ファン。菊地凛子氏も同席した2007年7月のオメガ・イベントでの来日時に、その思い出を語った姿が今でも印象に残る。
時計を選ぶ際には選ぶ人のセンスが一番問われるが、単なるファッション的要素だけではなく、歴史に残る偉業を成し遂げた傑作品に着目する選択眼があれば、より目利きとしてのセンスが高まるだろう。本年の新作「スピードマスター'57」は、人類の宇宙開発史に残るミッションをサポートし、数々の伝説の始まりとなった原点モデルを継承・発展させた正統派名品である。
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