「日頃の生活で心身の不調を感じている人は、自律神経が乱れているのかもしれません」と指摘するのは、順天堂大学医学部教授の小林弘幸先生だ。そんな小林先生に、自律神経の整え方や日常生活の心がけなどについて聞いた。キーワードは「噛むこと」だという。

■ストレス・気温・環境で簡単に乱れる自律神経

──子どもから大人まで、現代人はさまざまな不調を抱えていますが、どのような理由が考えられるでしょうか?

それらの多くは、自律神経の乱れと大きく関わっていると考えられます。

──まず、自律神経について詳しく教えてください。

自律神経とは、すべての臓器および、全身の血管や分泌物を調整している神経です。活動・興奮モードをつかさどる交感神経と、リラックス・休息モードをつかさどる副交感神経の2種類があります。自律神経はバランスを保ちながら働き、乱れないことが望ましいのです。

──自律神経が乱れる主な原因は?

ストレス、気温・気圧や環境の変化などです。通常、交感神経は日中になると優位に、夜になると副交感神経が優位になってバランスを保っています。しかし、現代のストレス社会では、夜になっても交感神経が優位のままであることが珍しくありません。

順天堂大学医学部教授 小林弘幸先生1960年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科(小児外科)博士課程を修了後、順天堂大学小児外科学講師・助教授等を歴任、現職に至る。長年、自律神経の研究に携わり、数多くのトップアスリートなどを指導する。日本スポーツ協会公認スポーツドクター
順天堂大学医学部教授 小林弘幸先生
1960年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科(小児外科)博士課程を修了後、順天堂大学小児外科学講師・助教授等を歴任、現職に至る。長年、自律神経の研究に携わり、数多くのトップアスリートなどを指導する。日本スポーツ協会公認スポーツドクター

■眠れない、疲れが取れないなどの不調

──自律神経が乱れると、体にどのような影響がありますか?

自律神経の働きのメインは、血流のコントロールです。交感神経が優位の状態が続けば、血管を収縮して血流が悪くなります。そのため内臓の働きが落ちて、睡眠の質が悪い、疲れが取れない、便秘、肩こりなどのさまざまな不調を引き起こします。また腸の動きが低下し、免疫機能が落ちて、生活習慣病の発症リスクが高まることもあるでしょう。

──心への影響は?

よく、スポーツの世界で「心技体」といわれますが、実は「体技心」の順なんです。体調が悪くなることで心も沈みがちになり、うつ症状につながります。最近では、児童や10代の若者にも、「朝に起きられない」といったうつ症状が多く見られるんですよ。

■手軽なリズム運動で、心を穏やかに

──自律神経のバランスを整えるために、どうすればよいのでしょう。

手軽なのは、リズム運動です。人は、一定のリズムに心地よさや落ち着きを感じます。胎児の頃からおなかの中で、母親の心臓音を聞いていることも影響しているのでしょう。

──日常で実践できるリズム運動は?

まずは食事に配慮してください。スマホを見ながらの“ながら食べ”や、“早食い”はいけません。食べ物を噛んでのみ込む機能は交感神経がつかさどっているため、交感神経を急激に高め、消化・吸収の働きを弱めます。一定のリズムでよく噛むことを心がけ、今までの倍の時間をかけるつもりで、ゆっくり食べましょう。

腸と自律神経は影響し合うため、食事はとても重要。朝食は起床後1時間以内、夕食は寝る3時間前に食べることが目安。自律神経が整うと腸内環境も良好に
腸と自律神経は影響し合うため、食事はとても重要。朝食は起床後1時間以内、夕食は寝る3時間前に食べることが目安。自律神経が整うと腸内環境も良好に

■ガムを噛むことによる、さまざまなメリット

──先生は、リズム運動の中でも「ガムトレ」を提案されています。

勉強や仕事の合間のちょっとした休憩時間に、ガムを5~15分程度、噛むのもおすすめです。左右の歯で、均等に噛むようにすることがポイントです。

──ガムの咀しゃくと健康機能の関係について、ロッテと共同研究を行い論文(*)を発表されましたね。

ええ。日常生活の中にガムを噛むことを取り入れて気分がよくなったり、自律神経バランスが改善したり、免疫物質である唾液中のIgAの濃度が増加したりすることが確認されました。ガムを噛むことで幸せホルモンともいわれるセロトニンが分泌され、ストレス軽減や自律神経の改善につながったことが考えられます(グラフ参照)。それにより、気分の改善やIgAの唾液濃度増加につながったと考えています。

*出典:「薬理と治療」(2022年50巻6号1049-1054頁)
【対象】20~50代の健常な男女50名(オープンランダム化並行群間比較試験)
【期間】2021年9~12月
【方法】対象者50名を2週間ガム摂取あるいは無摂取の2群に分け、介入前後で自律神経や気分状態、唾液採取による唾液中のIgA濃度等を測定。

♯:群間比較*:前後比較(p<0.05)
♯:群間比較*:前後比較(p<0.05)

──噛むこと以外に、おすすめのリズム運動はありますか?

タッピングがおすすめです。親が赤ちゃんを抱いているとき、軽く背中をトントンする行為がタッピングです。顔や頭、手の甲、机などを指で軽く一定のリズムでトントンたたいてみてください。特に顔や頭にはツボがたくさんあるので、副交感神経が活性化されます。プレゼンの前などに行うと、緊張がほぐれますよ。

■食事・運動・睡眠、日常生活を丁寧に

──リズム運動以外で、自律神経を整える方法は?

食事では、三食を決まった時間に食べ、腸内環境を整える発酵食品や食物繊維の豊富な食品を積極的にとってください。運動も大切です。エスカレーターではなく階段を使うといった、日常生活でできる運動を毎日心がけて。また、寝る1時間前にはスマホを見るのを控え、決まった時間に寝て・起きることをおすすめします。

睡眠の質の低下は、夜になっても交感神経が優位なままで、体が休息モードにならないことが原因のひとつ。食事をはじめ規則正しい生活を心がけ、気持ちのよい朝を迎えよう
睡眠の質の低下は、夜になっても交感神経が優位なままで、体が休息モードにならないことが原因のひとつ。食事をはじめ規則正しい生活を心がけ、気持ちのよい朝を迎えよう

──特別なことをするのではなく、日常を規則正しく過ごすことが大切なんですね。

その通りです。呼吸法も取り入れるといいですよ。息を吸うことと吐くことの割合を1対2にして、たとえば「3秒吸って6秒吐く」呼吸をすると、自律神経が安定します。

──生活を見直すことで、できることは多いと感じました。
現代人は、多かれ少なかれストレスを抱えており、自律神経が乱れないようにするのは難しい環境にいます。それなら、乱れたものをどうやって改善するかを考えればよいのです。自律神経を整える方法は、紹介したリズム運動を中心にさまざまあります。体と心の健康に意識を向けて、自分に合った方法をぜひ試してみてください。

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提供:ロッテ