■政治家が抗議の前面に
抗議は、開幕日だけで電話200件、メール500件に上った。事務局は抗議電話に対応する職員を増強し、ベテラン職員が応対した。だが、待たされた人がオペレーターに激高するなど抗議は過熱した。
「お前の母親の写真を燃やしてやるぞ」
女性に対しては一層攻撃的になり、職員の個人名をネット上にさらす事例も。「このままでは自殺者も出かねない」。連日未明まで続いた対策会議でこんな報告も出された。
愛知県の大村秀章知事は会見で「事務局スタッフの対応能力からオーバーフローしてしまった」と説明したが、岡本さんは、
「明らかに不当な暴力による人災です。知事が予算や手続きは後回しでいいから、と人員増などを決断していれば、状況は改善できたと思います」
今回深刻なのは、政治家が抗議の前面に立ったことだ。トリエンナーレ実行委員会の会長代行でもある河村たかし名古屋市長は8月2日に会場を視察し、「日本国民の心を踏みにじる行為」と主張。大村知事に展示中止を求める抗議文を出した。
「その後」展実行委の永田浩三武蔵大学教授は、こう批判する。
「作品に対するリスペクトがまずあって、作品と向き合うことで議論を深めましょうというのがトリエンナーレの根本精神。言論・表現の自由は人権の基本でもある。自治体行政のトップにある人が展示機会そのものを奪う発言をしてはならない」
前出の岡本さんも嘆く。
「電話で抗議すれば中止に追い込めることを知らしめてしまった。このままでは、私たちの目から隠される芸術品が増える一方です」
(編集部/渡辺 豪)
※AERA 2019年8月26日号