ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中
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写真:gettyimages
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 経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。

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 ブルゴーニュを含め、フランスのいわゆる農村の特徴は少ない人口が豊かに暮らす、という点にあります。日本の地方に関する議論の間違いは、いわゆる人口論ですべてを語ることです。「人口が減るから衰退、だから増やさなければいけない」とくるわけですが、人口数百人で豊かに暮らしている町、村がフランスにはいくらでもある。稼いでいるからこそ若い人間が帰ってくる。単純です。

 日本では事業継承が大きなテーマだというのですが、ばかじゃないかと思います。稼げるなら、黙っていても継承者は出てきます。むしろ継承者で奪い合いになるほどです。稼げない地方の事業にお金を貸して無理やり継承させようとする政策投資銀行や商工中金のやり方はどう見ても間違っています。それよりも今ある事業をどれだけ魅力的なものにするかが先でしょう。

 フランスのこうした地方都市には実際に若者が帰ってきて稼げる産業があります。それは先人たちが必死になって作り出したものです。一方、東京に対する被害者意識の塊で、だから補助金をよこせ、とばかり言っている日本の地方に一体だれがもどってくるでしょうか。

 日本の地方で中心産業となっている農業においては、結局のところ「安くたくさん」作るという、物が足りない時代の発想が邪魔をしています。本来ならいくらでも付加価値を高められるのに、「安くたくさん」という発想しかないから儲からないと決めつけてしまう。そんなんで土地の広いオーストラリアにかなうわけがありません。

 この飽食の時代に「安くてたくさん」にこだわるから、みんな貧乏になっているということに気づかなきゃいけません。安く売るから、働く人の給料も当然安くなる。つらくなって、仕事を継ぐ人が出てこないわけです。

 もちろん、高ければいいってわけじゃないですよ。ミシュランの星付きレストランがたくさんあるサンセバスチャンだって、気軽なバルに行けば手頃な値段です。しかし、高い利益率の高いお店もないと、修業して一生懸命自分に投資をしてきた人はどうします? これは漁業でも全く同じで「安くたくさん」売る発想のままだから乱獲が止まらないわけです。結局は水産資源がなくなって、さらに貧乏になる。もし付加価値を上げられるなら、少量でも十分稼げる。水産資源保護も、結局のところはお金の問題です。

 その「稼ぎ」を生むためにも、食という産業はすごく大切です。観光業は、地元の土地、海からとれたもので価値を作り出して外貨を獲得する産業だから、直接地元の儲けになる。だから食を取り巻く産業は地域にとって大切なんです。それを体現しているのがフランスの地方、ということになるでしょうか。

AERA 2019年6月17日号