ムーミンキャラクターズ社からは、50年代にヘルシンキの工房アトリエ・ファウニが革や布などで手作りして今や「まぼろしのムーミン人形」といわれるフィギュアや、トーベの母がデザインした陶製の人形など、ファン垂涎の貴重なコレクションも。ムーミンの物語が舞台化された際にトーベが手がけた舞台衣装や美術のスケッチ、ポスターなどもあり、トーベの多才ぶりがみえてくる。
今年は日本とフィンランドが外交関係を樹立して100周年。浮世絵とトーベの作品を並べて展示して、共通点を探る特別コーナーもある。
たとえば小島に上陸したムーミン一家を大雨が襲う挿絵(「ムーミンパパ海へいく」から)と、夕立に見舞われた橋の上で足早に行き来する人たちを描いた浮世絵「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」(歌川広重)を並べてみると、線で表現された雨の描写がとても似ていることに気がつくだろう。大波に翻弄されるムーミンたちの挿絵(「ムーミン谷の彗星」から)を、「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(葛飾北斎)と隣り合わせで見ると、白波を立てながら生きもののようにうねる波の一瞬を切り取った描写に類似点を感じられるだろう。
トーベの姪で、ムーミンキャラクターズ社の会長、クリエーティブディレクターのソフィア・ヤンソンさんは「トーベは幼い頃から日本やアジアの美術に触れていました。トーベ自身が浮世絵からの影響を明言しているわけではありませんが、トーベの作品と日本の美術とを並べ、皆さまにそこに共通点があると思っていただけるのは素敵なことだと思います。以前トーベは私に、日本や中国の雨の描き方が素晴らしいと言ったことがあります」とメッセージを寄せている。
トーベは日本を2度訪れ、日本に愛着を持っていた。奈良や京都、鳥羽など各地に足を延ばした際の写真や、滞在したホテルにあった用紙に描いたスケッチ、日本の関係者などにあてた感謝のカードなどもあり、温かい人柄がうかがえる。