中国の刑事手続の一般的な流れ (AERA 2019年2月4日号より)
中国の刑事手続の一般的な流れ (AERA 2019年2月4日号より)
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 中国の裁判所でカナダ人男性に懲役15年から一転、死刑判決が下された。二つの判決の間には、中国企業ファーウェイ幹部がカナダで逮捕されていた。

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 中国・遼寧省大連市の中級人民法院(地裁に相当)で1月14日、麻薬密輸罪に問われたカナダ人男性に死刑判決が下された。中国では薬物の密輸は重罪で、これまでにも外国人が死刑となった例がある。ただ、今回は昨年12月にカナダで中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)幹部が逮捕されたことをめぐり、両国が対立する中でのできごと。カナダのトルドー首相が「恣意的な死刑」と非難し、波紋が広がっている。

 カナダ人の被告はロバート・シェレンベルグ氏(36)。2014年11月末に大連の港の倉庫で見つかった約222キロの覚醒剤を、オーストラリアへ密輸しようとした罪に問われている。

 被告は2週間ほど大連に滞在し、その間に一度、中国人の案内役とともに倉庫付近に立ち寄っているが、「案内役に『いいところがある』と連れていかれた」「覚醒剤があったことなど知らない」「旅行に来ただけで無関係だ」などとして、一貫して無罪主張を続けている。

 実は被告は昨年11月20日、同じ裁判所から懲役15年の判決を受けていた。判決は密輸への関与を認定しつつ、「従属的な立場だった」とした。中国の刑法では、覚醒剤50グラム以上の密輸罪で死刑になる可能性があると規定される。被告が扱ったとされる薬物の分量からすれば、比較的軽い量刑だったと言える。

 しかし、無罪主張の被告側が上訴し、12月29日に開かれた上級審で異変が起きた。検察側が逆に「被告が国際犯罪組織の一員である新しい証拠が見つかった」と主張。さらなる調べが必要だとして、審理が中級法院に差し戻されたのだ。

 1月14日の差し戻し審では、中国人の案内役が証人として初めて出廷した。「倉庫に覚醒剤があるかもしれない」と警察に通報した上で、被告の関与を裏付ける証言で捜査に協力してきた人物だ。法廷でも「被告の指示を受けて行動していた」と主張。被告は中国語が話せないが、この案内役が被告の電話を使って中国人の麻薬取引グループの一員と連絡をとっていたことなどが「新たな証拠」とされ、「被告は国際犯罪組織の一員で主犯だった」として死刑となった。被告の拘束から4年余りが経つが、差し戻しから死刑判決までは、わずか16日だった。

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中国でカナダ人13人が拘束…