「あなたはノーマン・ロックウェル(19世紀生まれの大衆画家)のように米国を見ている……我々のGDPの80%以上はサービス業です」
米ワシントン・ポスト紙の敏腕記者、ボブ・ウッドワード氏が著した内幕本『FEAR(恐怖)』では、コーン氏がモノの貿易赤字にこだわるトランプ氏のおかしさを必死に説得する姿が描かれている。
だが、コーン氏は今年3月、安全保障を理由にした鉄鋼製品への関税を巡る議論に敗れて辞任。「歯止め役」がいなくなるなかで、ロバート・ライトハイザー通商代表、ピーター・ナバロ大統領補佐官ら「対中強硬派」の影響力が増している。
「最終的な目標は、中国に関税をかけることではなく、ズルをやめなければならないと明確なシグナルを送ることだ」
ナバロ氏は16年の大統領選期間中、筆者の取材にそう語っていた。トランプ政権発足から1年9カ月。こうしたナバロ氏の主張は、同政権の通商政策の「背骨」になっているのがわかる。
米中貿易戦争が過熱するなかでも、トランプ政権の大規模減税を背景に、米国経済は足元では堅調だ。米国の9月の失業率は3.7%と、1969年以来の低水準にまで回復している。
目下注目されるのは、アルゼンチンで11月下旬に開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議でのトランプ氏と、中国の習近平・国家主席との首脳会談だ。実現すれば貿易戦争が本格化して初めての首脳会談だ。
ただ、超大国としての相対的地位が下がる米国と、2030年までにも世界一の経済大国になるとみられる中国との対立は構造的な問題で、経済にとどまらない状況になりつつある。マイク・ペンス米副大統領は10月、保守系シンクタンク「ハドソン・インスティテュート」での演説で、中国が米国の中間選挙に不当に介入していると指弾。安全保障など幅広い分野で敵対的姿勢を鮮明にした。
米国の国際政治学者イアン・ブレマー氏は10月17日の都内での記者会見で、「短期的には米中が大げんかをするとは思わない」として、11月のG20で米中が何らかの合意を打ち出す可能性があるとした。中国から米国へのすべての輸入品に高関税をかければ、世界経済への影響は計り知れず、「トランプ氏もそれは避けたい」とみる。ただ、米中関係の将来には悲観的だ。
「中期的にみれば、米中はすでにテクノロジー覇権を巡る冷戦に入っている」
そのうえで、日本についてこう指摘する。
「安全保障は米国に頼らざるを得ず、中国経済へのアクセスも必要な日本には難しい状況だ」
(朝日新聞GLOBE編集部・五十嵐大介)
※AERA 2018年11月5日号より抜粋