経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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国会の会期が延長された。政府・与党が、彼らにとって「重要法案」の位置づけにある参議院未通過案件を、何とか成立に持ち込もうとしている。「重要法案」の一つに、カジノを含む「統合型リゾート(IR)実施法案」がある。
皆さんはソドムとゴモラをご存じだろう。旧約聖書に登場する退廃の都だ。そのすさみ方に対して、硫黄と炎の天罰が下った。映画やアメコミ好きの皆さんは、ゴッサム・シティもまたご存じだろう。これも退廃の大都会である。正義の味方、バットマンが、そこに蠢く悪と戦う。
「IR実施法案」が、筆者にソドムとゴモラを連想させ、ゴッサム・シティを想起させる。このイメージにさらに重なってくるのが、自民党の「時間市場創出推進議員連盟」なるものが打ち出している「ナイトタイムエコノミー」育成構想だ。
「日本の夜はつまらない」のだそうで、夜通しで遊べる街づくりの必要性を主張している。彼らがいう夜遊びの中には、美術館や博物館などの夜間営業も入るらしい。だが、一方で「デジタルダーツ」など現状では深夜営業を禁じられている遊びの解禁も模索しているのだという。
「ナイトタイムエコノミー」の追求とIR法案の間に直接的な連動関係があるわけではないだろう。だが、両者からは、よく似た怪しげな香りが漂ってくる。何とも気持ちが悪い。
一方で、政府・与党のもう一つの「大重要法案」である「働き方改革関連法案」の中には、彼らの目玉商品である「高度プロフェッショナル制度」と「長時間労働の是正」および「同一労働同一賃金の実現」が同居している。何とも乱暴な束ね法案だ。テーマが異質すぎる。ただ、彼らの発想の中では、これらのテーマを束ねてしまうことに矛盾はないらしい。なぜなら、彼らにとって「働き方改革」はそのどの部分をとっても、働く人々のための政策ではない。あくまでも成長戦略であり、労働生産性引き上げと競争力強化のための目論見なのである。
昼間は超効率的に労働させる。夜間は、退廃の不夜城活動で経済活性化に貢献させる。この枠組み確立のために、国会会期が延長される。何ということか。
※AERA 7月2日号