「そこには、映画の元になった記事の切り抜きや、監督の作品に対する思いなどが書いてあって。由加利をどう演じればいいのか、的確に指示されていました。今回はこの監督の思いに応えることが私の役割だと思って、由加利を作り上げていったんです」

 しかし、この由加利という人物、かなりイヤな女だ。

 大手食品メーカーでキャリアを重ね、ウーマン・オブ・ザ・イヤーにも輝くバリキャリで、高級マンションに住み、家事を桔平に任せて飲み歩く。合コンにも行く。会社でも桔平に対しても上から目線で、感謝することも謝ることもない。

「監督は、自分本位で身勝手な女性が成長していくさまを色濃く見せたかったと思うんです。そんなイヤな女を演じ切りたい、と思っていました」(長澤)

 もう一つ、長澤が大切にしたのは、「由加利」として、桔平や自分に対する思いに向かい合うことだった。

「人間は、一人の力で生きているわけではありません。自分が積み重ねてきた人生は自分のものかもしれない。でも、自分の努力が実るまでの道のりは多分、自分が思っているよりも厚みがあるし、奥行きがあるはずです。だとすれば、必ず誰かが自分の人生に関わっている。そこに気づけずにいたのが由加利だと思うんです」

 そんな彼女に、立ち止まるきっかけを与えたのが桔平だったのだ、と。

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