
個人が発行した「VA(仮想株式)」を売買できるサービス「VALU」。人気ユーチューバーらによる「売り逃げ騒動」で注目を集めるが、そもそも目指すのは個人の価値が評価される「評価経済社会」だ。
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漫画家の鈴木みそさん(54)は6月半ばからVALUを始めた。1VAを1千~2千円で売り出したところ、どんどん売れた。連日ストップ高に。
「VAが売れるとビットコインがどんどん貯まるんです。これはおもしろかった」
と鈴木さん。ところが、7月に入り1VAが4万まで上がったところで、急に売り注文が増え一気に下落。
「ものすごくショックを受けましたね。1週間くらい立ち直れなかった。売られると自分の評価が下がっているように感じたんです」(鈴木さん)
実はVALUのルール変更が影響していた。それまでは匿名でVA売買ができたが、7月半ばからアカウント名が表示されるように。ルール変更の告知が出ると、アカウント名表示を嫌った投機筋がVAを放出したのだ。
「僕のVAを購入する3分の1くらいは投機筋だが、ほかは僕のファンが買ってくれる。逆に、僕が若手漫画家のVAを買うと、彼らは喜んでくれる。応援の意味で購入するので手放しません」(同)
鈴木さんがVALUを始めたのは、資金調達のためだ。漫画家の主要な収入源は雑誌連載だったが、最近は競争が激しく、原稿料も下がっている。メールマガジン、クラウドファンディングなど他の収入源を模索してきたが、VALUは漫画家の支援に合うと鈴木さんは感じている。
「短期的には100万~200万円の収入になりそう。それで今月、中国・深センへ取材に行き漫画を描きます」
思わぬ収穫もあった。
「僕のVA所有者の優待としてオフ会をしたら、おもしろい人たちが集まった。VAを購入することで厳選されたコミュニティーになるんですね」
「互助会」のような人間関係が生まれたという。
「おもしろい人たちに僕のVAを所有してほしいので、漫画のネームや未掲載原稿といった優待を試しています」
鈴木さんはVALUで苦い経験もしたが楽観的だ。
「投機の人もいますし、課題もありますが、使い続けるうちに個人の評価や信用を適切に可視化するものになっていくんじゃないでしょうか」
(編集部・長倉克枝)
※AERA 2017年9月18日号