ふたりが史上最年少で芥川賞を同時受賞したのは2004年。いま、金原は2児の母となってフランス・パリで、綿矢も1歳児を育てながら執筆を続ける。作品は、変化しているのか。
金原ひとみ:家族を持ったり、海外に移住したり、そういう自分自身の経験と小説は多かれ少なかれ常に影響し合っています。その変化は自分でも新鮮で、今回も「こんな小説書くんだ、私」みたいなところがありました(笑)。
『クラウドガール』の主人公は18歳、16歳の若い姉妹。デビュー作の『蛇にピアス』で19歳の女の子を書きましたが、今回は主人公に感情移入するのではなく、わが子を眺めるような感覚で。俯瞰(ふかん)の立ち位置が変わったことは自分でも驚きでした。
●書くことが楽になった
綿矢りさ:私は自分が夫と暮らし始めてから、『私をくいとめて』の主人公と彼氏との関係を書き直したんです。もうちょっと濃くしよう、と。すべて書き上げてから新聞連載をスタートさせたのですが、自分と主人公が近い場所にいるようにしたいな、と思って。以前は、暴走して反省する、何かを学んでちょっと成長する、みたいな主人公を書いてきたんですが、最近、そういうのはいいやって思うようになりました(笑)。
昔はもうちょっと小説に関して真面目で、倫理とか意義とか影響とか、一つの小説の中で主人公の人生はある程度変わらないといけないし、世の人も「こういう訴えがあるんや」ということがないと納得しないかな、と思っていたんです。
金原:それが変わったんだ。
綿矢:そう、「置きにいく」というのかな。笑いを書くにしても、説明しないでちゃんと伝わらへんかったらどうしよ、と思ってたけど、最近はポンと置いて人が気づくのを待つようになった。態度とか姿勢とか、同じ文字の表現でも年齢とともに変わってきたのは面白いと思う。
金原:昔より書くことが楽になったのかな。『私をくいとめて』を読んだとき、「綿矢さん、今度はここにいくか!」って思いました。毎回いろんなことに挑戦してて、小説に選ばれてるような作家だよね。
綿矢:どう書いても自由だということは、頭ではわかっていたけど、それが体でほんまにわかってきた、という感じ。前は、書くときは演説前みたいに緊張してた。主人公もかなり力が入っていたし。でも、年を重ねたことで、世の中には本当にいろんな人がいて、どんな人を書いてもいいんだ、と思えてきた。