東京工業大学栄誉教授 大隅良典(71)/基礎研究が危機にある現状を憂えノーベル賞の賞金をもとに若手研究者に奨学金や研究費の支援をする仕組みをつくると表明した (c)朝日新聞社
東京工業大学栄誉教授 大隅良典(71)/基礎研究が危機にある現状を憂えノーベル賞の賞金をもとに若手研究者に奨学金や研究費の支援をする仕組みをつくると表明した (c)朝日新聞社
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京都大学iPS細胞研究所所長 山中伸弥(54)iPS細胞研究所の職員の大半は任期付きという。研究資金の募金を呼びかけるために、「完走」を掲げて京都マラソンに出場している (c)朝日新聞社
京都大学iPS細胞研究所所長 山中伸弥(54)iPS細胞研究所の職員の大半は任期付きという。研究資金の募金を呼びかけるために、「完走」を掲げて京都マラソンに出場している (c)朝日新聞社

 大学が、世間と隔離された「象牙の塔」と言われたのはまさに「今は昔」。国からの補助金も削られ、若年人口も減少する中、自ら「稼ぐ」ことなしに生き残りを図れない傾向が強まっている。働く環境の悪化に苦しむ教職員。経営難の地方私大の中には「ウルトラC」の離れ業で大逆転を狙うところも出てきた。そんな大学の最新事情を12月19日号のAERAが「大学とカネ」という切り口で特集。

 任期付きの不安定な雇用状況や研究費の削減などにより、大学では、若手の研究者が育たないという苦しい状況が続いている。このままでは、いずれ研究は劣化の一途をたどるばかりだ。果たして、打開する手立てはあるのか。研究者が直面するいくつもの問題点を紹介する。

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 12月10日にノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典・東京工業大学栄誉教授は、受賞が決まる前から講演などで繰り返し基礎研究の重要性を訴えてきた。

 ノーベル賞授賞式の1カ月前、大隅さんは授賞式の準備で忙しい合間をぬって、衆議院議員会館に赴いた。国公立大学振興議員連盟の総会で講演をするためだ。国会議員のほか、文部科学省や大学の幹部らがずらりと並ぶ前で、大隅さんはこう訴えた。

「こうしたらこうなる、とわかっているところからは、科学は大きな展開はありません。自由に個人の発想で研究ができるシステムを、何としても作ってほしいと強く思っています」

 今、国の政策によって大学や研究機関で進んでいるのは、その正反対の方向のようだ。さらに、大隅さんはこう続けた。
「最近、大学で研究評価がとても厳しくなっているが、特に若者にとって厳しくなっています。大学に任期制が導入されてから、若い人は数年で成果を出さないといけないという、圧迫感があります」

 研究の基盤になる研究者は若手を中心に雇用が不安定で、研究費は「役に立つ」目的志向に偏重しているのだ。

●増える若手の任期付き

 国立大学の若手研究者を中心に、任期付き雇用の大学教員が急激に増えている。

 文科省の調べでは、全国の国立大学教員のうち40歳未満の若手では、2007年度には38.8%だった任期付き雇用の教員が、16年度には62.9%と、任期なし雇用の教員を大きく上回ったのだ。さらに、国立大教員全体数は7%と微増している一方で、40歳未満では5%減少している。

 地方国立大医学系研究科に所属する助教の男性(37)は、国立大学で博士号を取得後、別の国立大学で博士研究員(ポスドク)を経て、上司の異動に伴い、3年前に今の大学に移った。大学から雇用されているが、5年の任期がついている。

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