アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は国立科学博物館の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■国立科学博物館 事業推進部 企画展示課長 吉野英男(54)
3月8日から公開が始まった「恐竜博2016に向けて、急ピッチで搬入作業が行われていた国立科学博物館(科博)。この日は、ティラノサウルスの骨格の組み立てが終わり、スピノサウルスの作業が始まっていた。
この二大肉食恐竜の全身骨格は今回の目玉展示の一つ。特にスピノサウルスは長い間、その生態が謎に包まれていたが、2014年に、四足歩行で、水中でも活動していた可能性があると論文で発表され、注目を浴びた。
そのスピノサウルスの四足歩行の全身復元骨格は日本初の公開になる。吉野英男は、恐竜展はもちろん、科博でのすべての特別展や企画展を担当。企画立案から展示までに3~5年はかかるため、常に15本ほどの企画を抱える。研究者と相談しながら、展示内容、展示方法を考えていくとともに、7人の部下の進行管理、進捗状況の把握も仕事だ。
明治初期の1877年に創立された科博は、日本で最も歴史ある博物館の一つ。自然史・科学技術に関する研究も担っているため、科博の特別展、企画展は、その調査や研究の成果の発表の場でもある。
「ただ、一方的な目線にならないよう、面白く、楽しく伝えたいんです」
ときに部下からの提案で思いがけない企画が誕生することもある。驚いたのは、地質年代を覚えるための替え歌を作りたいと相談されたとき。
「最初は暴走してるなと思った(笑)。でも歌を作るのは新鮮だったし、楽しみながら地質年代を知ってもらえたらいいな、と」
最終的には、人気声優に歌ってもらうまでになった。
日本大学文理学部卒業後、1985年に科博に就職。庶務課、財務課などを経て、09年に特別展室長になり、12年から現職。
「国立だから、“まじめさ”はもちろん必要。でも、若い人や女性にも楽しんでもらえるように、いい意味で博物館のイメージを変えていけたらうれしい」
(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(編集部・大川恵実)
※AERA 2016年3月21日号