一人暮らしでもにぎやかに、国籍も性別も趣味も問わずに、だれをも受け入れてきた新しい居住形態「シェアハウス」。それが今、新たな進化を遂げている。キーワードは「特化」だ。(ライター・まつざきみわこ)
日当たりのいい一軒家に、赤いバンダナとエプロン姿のおばあちゃん。何の変哲もない住宅街の光景のようだが、ここは20代半ばから30代の男女6人が暮らすシェアハウス「シェアネスト東横」(横浜市港北区)。おばあちゃんは、月、火、木曜の週3日、入居者の家事をしにやって来る「おばあちゃんコンシェルジュ」だ。
「“純子さん”じゃなくて“純子おばあちゃん”って呼んでね」
取材に訪れると、純子さん(63)はウフフとちゃめっけたっぷりの笑顔で出迎えてくれた。
東急東横線菊名駅から徒歩9分。家賃は6万円から、共益費1万2千円、サービス費8800円が別にかかるが、純子さんがタオルなど共用品の洗濯や水回りの掃除はもちろん、一汁二菜の手料理まで、家事を引き受けてくれるのだ。
この日のメニューはカレー。いい香りが漂うぽかぽかのリビングにいると、まるで子どもの頃の実家にタイムスリップしたような気分になってくる。
●おばあちゃんがお世話
出来上がった食事は部屋ごとの密閉容器に分けて冷蔵庫へ。仕事から帰宅した住人は、各自温め直して、おふくろの味ならぬ「おばあちゃんの手料理」を味わう。食材費は実費負担だが、「健康的でバラエティーに富んだ食事を食べられるのが一番」と好評だ。
「家事しかできない普通のおばあちゃんなのに、仕事ができて幸せです。私は住人のみなさんが大好き。お料理もみんなの顔を思い浮かべながら作っています」
このシェアハウスは、松栄建設(横浜市)の酒井洋輔さんが、自らの一人暮らしの経験から「家事をしてくれるおばあちゃんがいたら心が和む生活ができるのではないか」と企画した。シルバー人材センターの紹介を受け、2013年から純子さんが参加。入居希望者が10人待ちになるほどの人気となった。
「シェアハウスというと、若者が夜遅くまで騒いでうるさいのではないか、という誤解を近隣に与えてしまう場合も正直あります。ところが、純子さんが出入りして家の管理をしたり、ご近所づきあいをしたりしてくれることで、コミュニティーとの関係も円滑になるんです」(酒井さん)
住人が家にいる祝日やホームパーティーのときなどには、料理のコツを教えたり、恋愛の悩み相談に乗ったりする純子おばあちゃんの存在そのものが、物件の魅力を支えている。