【石巻】漁業6次産業化桃浦かき生産者合同会社 代表社員大山勝幸さん(67)牡蛎は、人体に必須といわれる亜鉛を多く含む。なかでも桃浦の牡蛎には通常の倍程度含有されており、付加価値が高い(撮影/編集部・齋藤麻紀子)
【石巻】
漁業6次産業化
桃浦かき生産者合同会社 代表社員
大山勝幸さん(67)

牡蛎は、人体に必須といわれる亜鉛を多く含む。なかでも桃浦の牡蛎には通常の倍程度含有されており、付加価値が高い(撮影/編集部・齋藤麻紀子)

 高齢化も過疎化も待ったなしの被災地で、「シリコンバレー並み」とも言われる変化が、実は起きている。その中で、日本をリードする事業が生まれる。

 朝7時。静かな海に臨む小屋で、漁師たちがタイムカードを押す。身のしまった牡蛎(かき)で有名な、宮城県石巻市桃浦(もものうら)地区。東日本大震災前まで個人事業主だった漁師たちはいま、皆で準備をした船に数人単位で乗り込む、「サラリーマン漁師」になった。

 これは、漁業が抱える「高齢化」「所得減」「後継者難」の課題を解決する取り組みのひとつだ。一般的に漁師は、漁業権を得るため、個人単位で漁業協同組合に加入する。が、桃浦では「桃浦かき生産者合同会社」をつくり、希望する漁師は社員になる。毎月一定の給料がもらえるため、別業種からの「転職」も生まれた。高齢の漁師のノウハウを、別の従業員が引き継ぎ、未来の仕事にもつながるという。

 合同会社代表の漁師、大山勝幸さん(67)は津波で自宅も流され、「もう仕事はやめよう」と孫が住む仙台に移り住んだ。が、自分はよくても、地域には高齢化と後継者不在という課題が残る。さらに地区の67世帯中63世帯が被災した現状に、「このままでは、牡蛎のまちだった故郷まるごとなくなってしまう」との危機感から、会社設立に動いた。漁業再生を目指す宮城県の「水産業復興特区」の初適用を受け、漁協を介さずに漁業権を取得した日本初の事例になった。

「個人を組織にすることで、故郷に未来が生まれた。会社にしてよかった」(大山さん)

AERA 2014年3月17日号より抜粋