土用の丑の日に合わせて、店頭に並ぶウナギの蒲焼き商品。「中国産」表示のウナギの中には、欧州種も含まれていた。しかも、絶滅危惧種に指定されている。
多くの消費者は、店頭に並ぶ「中国産」のウナギも、日本人に愛されてきたニホンウナギが、中国で養殖されたものと考えるだろう。ところが、ニホンウナギは稚魚の不漁が続き、輸入も含めてこの2年間でほぼ半減している。
それでも、店頭には相も変わらず、ウナギの蒲焼きが並んでいるのは、なぜか。その実態を調べるため、アエラ編集部は、ウナギの生態に詳しい北里大学海洋生命科学部の吉永龍起講師(個体群生態学)の協力を得てDNAを解析した。
対象商品は、7月上旬に首都圏で、大手のスーパー、牛丼チェーン、弁当店、すし店で販売されていた13社23商品のウナギ蒲焼き商品。結果は、8社9商品で「ヨーロッパウナギ」(アンギラ種)が確認された。
ヨーロッパウナギは、遠く大西洋のサルガッソー海で生まれ、北大西洋沿岸に生息する。2008年には、乱獲などで急激に数が減少しているとして、国際自然保護連合(IUCN)が絶滅危惧種に指定した。ジャイアントパンダやトラより上位の絶滅危惧IA類に認定されている。
しかし、絶滅の恐れのある野生動物の輸出入取引を規制するワシントン条約では、商取引が禁止される附属書Iではなく、商取引は可能だが輸出国の許可書等が必要な附属書Ⅱに分類されている。
実は、20年ほど前から、北大西洋で取られたヨーロッパ種の稚魚を中国の養殖場で育て、蒲焼き加工して日本に輸出する動きが続いているのは、業界では知られた話だ。そして、店頭に、「中国産」として並ぶ。こうした行為は、現行の法令や規制には触れない。
ところで、絶滅危惧種に指定されているヨーロッパ種のほうが、輸入コストを含めてもニホンウナギより安いのは、なぜなのか。
ニホンウナギの天然卵を世界で初めてマリアナ諸島西方海域で見つけた、ウナギ研究第一人者の日本大学教授・塚本勝巳氏によると、10年幅での急激な減少率から絶滅危惧種の最高ランクに指定されたヨーロッパウナギだが、ニホンウナギに比べると分布域がずっと広いので、種全体の個体数は多い。したがってウナギの稚魚も多く取れ、価格も安い。許可の手間はかかっても、安い人件費に支えられ、価格を抑えられる。そうした事情から、逆転現象が起きているという。
※AERA 2013年7月29日号