春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が絶賛発売中!
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が絶賛発売中!
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イラスト/もりいくすお
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 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「新米」。

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 昔の刑事ドラマを観ていると、『新米』は「おい! 新米っ! 張り込み行くゾッ!」とか「新米っ! モタモタすんなっ!」なんて、先輩から声をかけられている。昭和の『新米』は名前でなく『新米』と呼ばれがち。子供ながらそのやりとりにちょっと憧れた。新参者はぞんざいに扱われる風なやつ、昔ながらの厳しいプロの世界ってかんじで、いいね!と思っていた。

 落語家になってみると、前座の時は「おい! 前座! お茶くれ!」とか「前座っ! くっちゃべってんじゃねぇっ!」なんて、先輩から名前でなく『前座』と呼ばれまくり。正直、名前で呼ばれないのはイラッとしなくもない。個として扱われてないじゃないか。ドラマの新米刑事も素直に返事していたが、内心ムカッとしていたに違いない。私もいつも上の人に対して「名前くらい覚えろよ……」と思っていた。だが、まぁ自分が先輩になってみると気づくことがある。「これはなかなか覚えられねえな……」と。

 後から後から前座が入ってくる。入門から4年もするとあっという間に二つ目に昇進して「◯◯改め、△△になりました」なんつって改名したりしやがって、せっかく覚えたのにまた最初からやり直し。私はまだ若いからなんとかなるが、寄席の楽屋にはおじいさんが多いから酷だろう。

 だからある時から偉い人が「前座が多すぎて名前が覚えられねえから、みんな名札をつけろ!」と言いだした。私が前座の頃は入ってから3カ月は名札をつけるきまりだった。幼稚園児じゃあるまいし、みっともない。名札をつけても「前座!」としか呼んでくれない人もいる。第一、あちらさんは名札見てないし。早く外したくて仕方ない。だからほとんどつけてなかった。

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