ジャーナリストの田原総一朗氏は、米中首脳会談でトランプ氏が“豹変”したことについて解説する。
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大阪で行われたG20で、世界中がトランプ大統領・習近平国家主席の米中首脳会談に注目していた。
2018年10月のペンス副大統領の強烈な対中批判演説で、米中は“新冷戦時代”に入ったと見られており、現に米側は次々に対中強硬策を打ち出してきた。そのため、G20での米中首脳会談は決裂に終わる、との見方が多かった。だが、私は習近平氏が今回はトランプ氏に花を持たせるのではないかと予想していた。
トランプ氏の頭の中は、来年の大統領選挙に勝つことで占められていて、それに対して習近平氏は任期が終身なので、5年、10年先が考えられる。だから、今回はトランプ氏に花を持たせ、大統領に再選されてから、習近平氏のペースに巻き込もうと考えているのではないか、と考えたのだ。そのように予測している事情通も少なくなかった。
ところが、なんとトランプ氏のほうが中国側に大きく妥協したのだ。
まず、習近平氏を「信頼できる首脳」だと評価し、米中交渉を続けると言い切り、交渉中は第4弾の制裁関税を発動しないと約束した。しかも、前回は交渉期間を90日間と定めたのだが、今回は期限を設けなかったのである。ということは、よほどのことがないかぎり、第4弾制裁は実施しないということだ。
それだけではない。世界中が驚いたのは、それまで中国の通信機器最大手のファーウェイとの関係を一切拒絶すると宣言し、日本やオーストラリアに対しても一切取引をするなと強く求めて、両国はそれに応じていたのに、条件付きではあるがファーウェイとの取引を認める、とトランプ氏が言ったことだ。
これは一体どういうことなのか。
実は米国にはファーウェイと関わりを持つ企業が少なくなく、一切拒絶することになると、そうした企業がダメージを受ける、との強い訴えがあったのだという。中国の場合ならば、そのような不満は抑え込めるはずだが、米国は民主主義ゆえの弱さがある、ということなのだろうか。