

役員報酬をめぐる有価証券報告書の過少記載事件で逮捕された、日産自動車のカルロス・ゴーン前会長。ジャーナリストの田原総一朗氏は、逮捕のタイミングに疑念を抱く。
* * *
日産自動車の代表取締役会長カルロス・ゴーンが、11月19日に東京地検特捜部に逮捕された。
ゴーンは、ケリー代表取締役と共謀して、2010~14年度の5年度分の有価証券報告書に、実際は計99億9800万円の報酬があったにもかかわらず、49億8700万円と過少に記載していた疑いがある、というのである。虚偽記載のほかにも、日産の投資資金や経費を私的に流用していた、という不正もあるようだ。
この事件は、私にとって大きな衝撃だった。実は、私はゴーンに2度インタビューしたことがある。経営者として相当評価していたのだ。
1度目は1999年、ゴーンが日産のCOOとなって3カ月目であった。当時、日産は深刻な経営危機に陥っていた。ゴーンに、なぜ日産は経営危機に陥ったのか、と問うた。
“日産の幹部たちに、なぜ経営状態が悪いのか、と聞いたのです”
ゴーンは英語で答え、通訳に入ってもらっていた。
“すると幹部たちは、市況が悪いからだ、と答えました。そこで、市況が悪いのならば、なぜトヨタやホンダは経営状態がよいのか、と問いました。そしたら答えはなかった。そこで、この幹部たちが日産の経営を悪化させているのだ、と判断しないわけにはいかなかった。彼らを変えなきゃダメなんだ、と”
ゴーンは、はっきりと言い切った。私は、経営者としての“決意”を強く感じた。さらに彼は話した。
“日産という会社は縦割りで、透明度が極めて低く、閉鎖的でしてね。たとえば経営者が、もっと自動車を売れ、とハッパをかける。すると販売担当部は、値段を下げて売る。つまりダンピングをするわけです。そして、その実態が経営者にはわかっていない。縦割りで透明度が低いからです。そして、部品などの機材を購入する部門は、トヨタやホンダなどより2割も高く購入していて、しかもリベートを取っている。これでは経営が悪化するのは当たり前です。しかも、社員たちのほとんどはその実態を知らず、だから危機意識を持っていない。できるだけ早く、オープンで全社員が情報を共有できる会社にしなければなりません”