監督の沖田と山崎は2度目のタッグ。「山崎さんは若い沖田監督の言うことを『あ、そうだね』と全部聞いていた。文学座の大先輩の杉村春子さんも監督に盾突くところを見たことがない。りっぱな役者はそうあるべきだと思うわ。私は生涯見習えなかったけど」
樹木はモノ言う役者だ。守一と秀子の夫妻は子どもを3人、病気で失っている。樹木は「観客にそれを伝えたい」と監督に提案した。碁を打つ場面での秀子の「うちの子たちは早く死んじゃって」というセリフはこうして生まれた。
「守一は『長生きをしたい』と言っていた人ですから。その彼が命を子どもにつなげられなかった。その理不尽さを出したかったの。沖田監督は『いいですよ』と言ってくれました」
若い頃からコメディーのセンスは抜群だった。この映画でも、秀子の写真を見た守一が「オニババだな」とつぶやき、秀子がムッとする。その表情の微妙な変化に、思わず噴き出した。「私自身は器量をどう言われても気にならない。でも秀子はたぶん『不細工だ』と言われたことのない人。他ならぬ夫にそんなことを言われ、すうっと覚める演技が必要だと思いました」
(朝日新聞編集委員・石飛徳樹)
※週刊朝日 2018年6月1日号