ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「デーモン閣下」を取り上げる。
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あのデーモン閣下が怒り心頭のご様子。悪魔の逆鱗に触れたのですからよっぽどの事態です。なんでも某アニメ番組にて『デーモン風高杉』なるキャラが、どこからどう見ても閣下をモデルにしており、それに関する番組側からの断りがいっさいなかったことがその理由だそう。ちなみにこの『デーモン風高杉』とは、歴史上の人物である高杉晋作を『破天荒シンガー』に見立てたキャラらしいのですが、歴史に疎い者としては高杉晋作がデーモン閣下(もしくは聖飢魔II)に繋がる根拠がさっぱり分かりません。しかも作中の『デーモン風高杉』の歌というのが、いわゆるジャイアン的(音痴)な破壊力が特徴だというから穏やかじゃない。
衣装や髪型やメイクなど、固定されたビジュアルが浸透している芸能人・有名人にとって、それを無断で乱用されるのは由々しき問題です。閣下以外にも美輪明宏さん、黒柳徹子さん、和田アキ子さんなどは、もはやキティちゃんやキューピー人形と同じくらい画一化された『視覚的コンセンサス』があるわけで、例えばブリッ子→松田聖子、ヤンキー→工藤静香、整形→マイケル・ジャクソンといった『イメージ』の共通認識だけとは意味が違います。そんな中でもデーモン閣下は、鉄拳さんと並びその最たる事例と言えるでしょう。他にもタモリさん・井上陽水さん・鈴木雅之さんの『グラサン3巨頭』や、『絵に描きやすさナンバー1』のマツコさん、そして今や日本のテレビ画面の原風景になりつつあるオードリー春日さんなど、世間が共有するビジュアルというのはれっきとした3次元知的財産なのです。