ジャーナリストの田原総一朗氏は、沖縄県名護市長選で渡具知武豊氏が当選した理由を分析する。
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沖縄県名護市長選が2月4日に投開票され、米軍の普天間基地移設計画を事実上容認する渡具知武豊氏が、辺野古移設に反対する現職の稲嶺進氏を破って初当選した。2期連続で当選してきた稲嶺氏が敗れたのは、前回まで自主投票を表明しながら事実上、稲嶺氏に投票してきた公明党が渡具知氏支持に転じたことも影響しただろう。それにしても、なぜ渡具知氏が当選したのか。
朝日新聞の世論調査では、沖縄県民の63%が辺野古移設に反対で、賛成は20%でしかない。沖縄の面積は日本全体の0.6%しかないのに、米軍専用施設面積の70.4%が集中している。沖縄県が日米安保のほとんどを負担させられているのだ。米兵による犯罪や米軍機の墜落事故も少なくない。沖縄県民が米軍基地に強い拒否反応を抱くのは当然だ。また、本土の国民は、そんな沖縄に申し訳ない、という思いも、あまり感じていない。
だから、翁長県知事や辺野古を抱える名護市民が移設に反対するのはよくわかるのだが、なぜ今回の市長選で、移設を事実上容認している渡具知氏が当選したのか。実は、渡具知氏は取材に「私は(辺野古移設を)容認だと(主張して)臨んだわけではない」と答え、「基地問題での市民の複雑な意見は承知している」「国とも一定の距離は置かないといけない」と語っている。選挙中、渡具知氏は「移設」についてはまったく語らず、もっぱら経済振興を訴えた。政府は、稲嶺氏が市長になって以後、米軍再編への協力が前提となる再編交付金(8年間で約135億円といわれる)を支払ってこなかった。渡具知氏はその再編交付金を受け取り、名護の経済を振興する、と訴えたわけだ。
移設に反対する新聞やテレビは「カネで市民の心をねじ曲げた」などと怒るが、私は沖縄をないがしろにする政府のやり方には強く問題を感じているものの、名護の少なからぬ市民たちが展望のない「反対」に疲れ果てたのではないか、ととらえている。「反対」と叫び続けても、辺野古の工事はどんどん進んでいる。