ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「AKB総選挙」を取り上げる。
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なんやかんやで毎年話題になるAKB総選挙ですが、まず今年は大雨で野外開催が急遽中止となり、風物詩でもあるあの野太い声の観客(有権者)がいっさいない状況の中、沖縄県の某公民館から生中継という異例の事態。まるでどこかの女子校の臨時集会のようでした。そして何故か『中継特番』のゲストに呼ばれた私。ほぼ身動きの取れない狭いシートに3時間近く身を埋めながら、その様子を見守らせて頂きました。
結果に歓喜する娘、順位を下げて悔し涙を流す娘、目標順位には到達せずも涼やかに感謝を述べる娘、早々と来年以降の目標を誓う娘など、悲喜交々(こもごも)のオンパレード。そして選抜メンバーに差し掛かる頃になると、グループの現状を憂いつつも、自らを叱咤激励し成長を誓ってみたり、ミュージカル調に今までの人生と未来を語り出してみたり、ありとあらゆる方向性から自我を大量放出します。本来、『自我』や『自覚』とは真逆の場所で育まれるのがアイドルだと思うのですが、ここでは「私、これだけ命をかけてアイドルやってるんです!」と存在意義を主張し、「だから私を選び投資してくれた皆さんの判断は正しかった!」という極めてデジタルな確認作業を、とことん情に訴えながらしていくのが流儀です。『好意』や『憧憬』といった感情は、そんな単純に数値化できないもの。それでも、あえてそこをデジタライズすることで、客側の立場を『主役』にしてしまう。これこそがAKBの最大にして唯一の商品価値なのです。昔から「お客様は神様。でも主役はあくまで舞台上の人間。」というのが芸能の鉄則ですが、今回初めて現場を生で観て分かりました。彼女たちは誰ひとり主役じゃない。そりゃファンは面白いに決まってますし、それを外野席から眺めている世間だって悪い気はしないはずです。
かねてから『恋愛禁止』なるルールの存在を自ら口にすることで、アイドルグループとしてのスタイリングを行ってきたAKB。若さや処女性(男女を問わず)を売りにしているアイドル芸能にとって、それはとても大切な建前であり、客感情に対する最低限のエチケットです。しかしながら建前を『規則』にし、さらにそれを『売り物』にしてきてしまったわけですから、そこに綻びをきたしてしまった商品(タレント)は、少なからず直接的消費をしているお客にとっては『不良品』と見做され、クレームを付けられることは致し方ないのかもしれません。とは言え、このレベルの矛盾すらも、きっちり売り物として成立させるのがAKBの真骨頂ではないでしょうか。むしろ今回の一件で、AKBの外部市場(非有権者)は活性化されたと思います。ただ、アイドル芸能の本質は違うところにあると思うので、今一度そこを極めて頂きたいと切に願います。
そして、アイドル好きの外部市場代表として言わせて頂きます。アイドルはやはり主役でなくちゃね。結婚宣言なんてしなくても逸材はたくさんいらっしゃいましたよ。
※週刊朝日 2017年7月7日号