
歌舞伎俳優の中村橋之助が、女形として名を残した亡き父・七代目芝翫の跡を継ぎ、八代目中村芝翫に襲名した。同時に息子三人もそれぞれ四代目橋之助、三代目福之助、四代目歌之助を襲名。四人同時襲名は歌舞伎界で初めて。その披露興行の舞台の表と裏に迫った。
密着取材で見えてきたのは、中村家の歌舞伎への並外れた情熱と家族の愛情。父・芝翫は
「私は息子にあまり教えません。身内より諸先輩方に聞いたほうがずっと頭に入ることが多いですから」と話すものの、やはり息子たちの様子が気になるようで、襲名前は「息子が早拵(こしら)えをちゃんとできるか……考えるとおなかが痛くなる」と心配し、自身の出演がない演目でも息子三人が稽古しているとなれば見に行き、踊りが始まると「こうしたらいい」と言わんばかりに手足が動き、アドバイスも送っていた。
長男・橋之助は話す。
「家でシャワーを浴びながら台詞せりふを言って稽古していると、それを聞いた父が『そうじゃない!』と急に風呂場に入ってくるんです」
襲名興行が始まってからは、
「夕食は毎日歌舞伎ディスカッション。母(三田寛子)が毎日見てくれて『もう少し顔が見えるようにしたら』など観客として感想を言ってくれ、それに父が役者としてのアドバイスを加える。そうして日々芸を磨いています」(長男)
寝ても覚めても歌舞伎一色。そんな息子たちにとって父・芝翫は偉大な先輩だ。