上半身は冷えとり健康法の頭寒足熱ルールにしたがって、ひたすら薄く、かろやかに。ここで華奢な肩や手首をチラ見せすれば、ごつい足元で目減りした女子度も一気によみがえることでしょう。下半身を温めて毒を出したいから、靴下だけでなくレギンスもたくさん重ねます。だから、ゆるっとしたシルエットのオーバーオールやワンピースは、冷えとりワードローブにおいて、通年のマストバイ。

 冷えとりファッションに身を包む女子は、ナチュラルな風合い&ゆったりシルエットでありつつも、単なるゆるふわ癒やし系とは一線を画す、意志の強いオーラを放ちます(アースデーやエコ系イベントでよく見かけるタイプ)。そのキリリとした空気は「ちょっぴり不便でも自分をいたわるファッションを選択し、努力とセンスでオシャレに着こなす、ひと足先の時代を生きている私たち」という自負から生まれるのでしょうか。

 ヘルシーコンシャスなファッションを楽しむこと自体は、すてきなことです。なかには高価な商品はあるといっても、所詮は靴下。しかし、自然派女子のあいだに広がった冷えとり健康法の、ハードコアな暗黒面がすさまじい。それは“めんげん”と呼ばれる好転反応をありがたがる価値観です。

 重ね履きした靴下に穴があいたら、それを“毒素が出た証拠”。さらに、冷えとりの過程で湿疹が悪化してきたら好転反応=めんげん、骨折発熱肌荒れ異臭も、冷えを出せるようになってきたサイン!と、松岡修造レベルのポジティブシンキングで不調を喜び、仲間内でお互いの健闘っぷりを称え合います。

「好転反応」「毒が出ている」という表現については、すでに消費者庁から「(売りたい商品を)続けさせるための典型的な言い回しである」と指摘されていますが、冷えとり界ではそのような情報は分厚い靴下によってシャットアウトされているようで、毒(冷え)の出たサインがキターとばかりに、喜ばれます。

 ヒエトリサマ愛読のHPには「冷えとりガールの集い」なるコンテンツがあり、読者の冷えとり体験談が掲載されています。

「冷えとりで、薬に頼る自分を卒業!」
「靴下を履いたまま出産して、大安産」
「冷えとりで統合失調症を克服。冷えとりは『医』の自給自足」

 異界の風を感じられる、思わず二度見してしまう見出し。記事の内容は、それぞれのめんげん報告です。冷えとりを始めると湿疹が出たので血や体液がにじむほどせっせとかきむしり(冷えとり健康法を提唱した医師が、そう推奨しています)、「毒を出しきった」と満足げな読者。なかには湿疹が悪化し、かゆみと痛みで眠れないほどひどい状態になる人もめずらしくないようです。そんな苦役のあいだも、絹やオーガニックコットンの肌着をせっせと買い集め、「いま私、冷えを追い出している!」と自分に暗示をかけることは怠りません。

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