小学校の宿題の定番「音読」。とにかく早く終わらせようと、「早口で棒読みして親のサインをもらっておしまい」にしていませんか? それはもったいない! というのも、ちょっと意識して音読すれば、読むことが楽しくなり、読解力も伸びて、しかも脳も鍛えられる、といった「一石三鳥」の効果があるからです。発売中の「AERA with Kids2022春号」(朝日新聞出版)で、脳科学者の加藤俊徳先生に話を聞きました。
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「音読って、ただ声に出して読んでいるだけだと思ったら大まちがい。正しく音読すれば、脳はいろんな場所が刺激を受けて活発に動きます。人は脳がそうやってフル回転しているときに、さまざまな能力がぐんと伸びるのです」と加藤先生は話します。
音読が上手にできるためには、八つの脳番地(図参照)をそれぞれ順に使いこなす必要があります。
まず目で文章を見て、口を動かして声に出し、それを耳で聞くという視覚系、運動系、聴覚系脳番地を同時に使わなくてはいけません。これが第1段階の感覚音読。脳は「字を見ること」「口を動かすこと」「自分が発した言葉を聴くこと」で刺激を受けます。この第1段階は「書かれた文字を、ただ声に出している状態」とも言えます。
さらに声に出した言葉を脳にインプットし、人に伝わるように読むことで、記憶系、伝達系脳番地を使います。これが第2段階の認知音読。感覚音読で読んだ文字を言葉として脳にインプットし、人に伝わるようにアウトプットする、音読の第2段階です。感覚音読の刺激が情報となって、スムーズに読めるように働きます。
そして読みながら文章の意味を理解し、考えたり、味わったりするとき、脳の理解系、思考系、感情系脳番地が使われます。これが第3段階の発展音読。認知音読で脳が受け取った情報を処理する、つまり文章を意味のあるものとして理解し、内容について考えたり、味わったり共感したりする段階です。読解力のつく効果的な音読の仕方です。
「子どもの脳は脳番地と脳番地のつながりが未熟です。しかも視覚系脳番地と聴覚系脳番地は離れているため、見たものと聞いたものを同時に理解できないこともあります。ですから、正しい音読によって、この3段階がスムーズに働くようにしていくことが大切です」
もし子どもが「音読しても内容が頭に入ってこない」という場合は、「声を出すことに意識がいきすぎて伝達系脳番地の働きが強く、自分の声を聞いて頭に入れる聴覚・記憶系の働きが弱い」のかも。「音読が苦手な子はこのようなケースが多いです。でも心配することはありません。自分の声をしっかり聴く練習を繰り返せば、正しい音読ができるようになります」と加藤先生。
じつは加藤先生自身、子どものころから「音読しても内容がまったく頭に入らない」という音読障害を持っています。そして「自分が発した声を同時に聞いて記憶できない」ことがわかり、脳の研究をしながら克服する方法を見いだしました。そんな先生のおすすめする、具体的な音読法を紹介します。
文章の意味や内容がすっと入ってくる効果的な音読法とは?
子どもがなかなか「発展音読」にたどり着かないと思っても、心配することはありません。次のポイントから、少しずつ文章を自分のものにできるようサポートをしてみましょう。
ポイント1 なるべく短い文章を読む
音読を習得するためには、短い文章を選ぶのがおすすめ。ことわざや格言、詩、短歌や俳句は短いけれど味わい深いものです。何度も繰り返して情景をイメージするとさらに効果的。短文でも内容を理解して考えたり味わったりすれば発展音読に近づきます。
ポイント2 読むときは助詞を意識する
「春休みは家族と旅行に行く」の「は」「と」「に」のような「助詞」を〇で囲むと、名詞と助詞の区切りが目で見てわかり、単語が頭に入りやすくなります。さらに読むときは意識してゆっくり強めに声に出すと文章を耳でとらえながら意味を理解できます。
ポイント3 会話が広がる問いかけをする
自由に親子の会話を広げてみましょう。「主人公の〇〇くんは、どうしてすぐに怒っちゃうのかな?」「もしこれが本当にあったら、どうする?」など。子どもが自由に考えを深められる問いかけは、音読の内容を豊かに広げてくれます。
暗唱することで読解力がさらにアップ
「音読で一番大切なのは“自分の声を聴く”こと」と先にお伝えしました。脳は耳で自分の声を聴くことで受けた刺激を「記憶系脳番地」につなげていくからです。加藤先生は次のように話します。
「そこがしっかりしていないと、記憶として定着しないのです。記憶に残らないから、どうしても一字一字を追うような読み方になり、読んでいてもおもしろくなくなってしまう。だから音読では出す声に強弱や抑揚をしっかりつけて脳に残るような読み方をすることが大切です。そうすれば脳はその読み方を記憶し、黙読でも頭の中で強弱や抑揚をつけながら読めるようになるので、理解が進むのです」
大人は文章を読むとき、「理解しながら記憶していく」ことが自然とできていますが、子どもは脳番地のネットワークが未熟なので、「記憶していないと理解が進まない仕組み」になっています。頭に入っていないと理解できないということです。
「繰り返して読むことが大事というより、一度頭に入った状態で文章を理解し、考えるというプロセスを繰り返すことが大切です。何度も音読して、その結果、文章を見なくても読める(=暗唱できる)ようになるといいですね。目で字を追わない分、頭のなかで自由に文章のイメージを広げて味わう余裕が出てきます。そうすることによって理解もさらに深まり、脳がぐんと成長する。読解力ももちろんアップします」
効果的な音読法で紹介した「音読は短い文章がいい」というのも、この「読んで、理解して、味わう」の一連の流れを実感しやすいから。そして「助詞を意識する」のは、最後までハッキリ読むためと、声に強弱をつけることで脳を刺激するためなのです。
このメカニズムを知ると、音読はもっと楽しくなりそうですね。
(文/船木麻里)
「脳の学校」代表・加藤俊徳先生/脳科学者。小児科専門医。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家であり、「脳番地トレーニング」の提唱者。『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)など脳科学に関する著書多数。
※AERA with Kids2022春号より転載