<STORY 2> 竹のいすを編む女性と出会う
ユヌスはある荒れ果てた家の前で立ち止まった。そこでは一人の女性がとても美しい竹のいすを編んでいた。彼女は原材料の竹を買うお金がなく、高利貸からお金を借りて竹を仕入れ、つくったいすを売り、手元に残ったわずかな利益(1.6セント。現在の日本円で約2円)だけで暮らしているというのだ。彼女にはそれしか生きる手段がなかった。
ユヌスにはその女性が高利貸のとらわれの身のまま、死ぬまでそうしているかのように見えた。
<私は茫然とした。大学の講義で、私は何万ドルもの金について論じてきた。ところが今、私の目の前では、わずか数セントの金をめぐって生と死の問題が起こっているのだ。何かが間違っている。>『ムハマド・ユヌス自伝 貧困なき世界をめざす銀行家』(早川書房)から抜粋
<STORY 3> 貧しい人がお金を借りられない現実
ジョブラ村には彼女のような人々がたくさんいた。高利貸から借金さえしなければ、自分のつくったものに高い値段をつけて売り、今よりずっと豊かな暮らしができるはずなのに――。
しかし、貧しい人のためにお金を貸してくれる公的な金融機関はなかった。
「彼らが貧しいのは、愚かで怠惰だからだろうか? いや、国の経済構造が彼らを救えるようにつくられていないのが問題なのだ」とユヌスは考えた。
<STORY 4> グラミン銀行を設立
それからユヌスは試行錯誤の末、貧しい人でもお金を借りられるような小さな銀行を始めた。それは次のようなものだった。
・少ない金額を短期間、担保(※1)なしで貸し出した。
・借り手を女性に限定した(※2)。
・銀行員が調査し、 融資する人を探した。
・5人1組のグループをつくらせ、1人が返したら次の人が借りられるシステムにした。
※1 お金を返せない場合、銀行に保証として差し出すもの。不動産や株など。
※2 バングラデシュでは女性差別が根強く、銀行は女性にお金を貸さない風習が残っていた。