社会の不平等をなくすためにはどうしたらいいんだろう。最貧国の一つ、バングラデシュの農村にそのヒントがあった。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、明治学院大学大学院教授の菅正広さん監修の、グラミン銀行誕生秘話を紹介しよう。
■今までとは真逆の発想でつくられたグラミン銀行
グラミン銀行が成功した理由は、農村の貧しい人々には、お金と働くことに強いニーズがあったにもかかわらず、お金を貸してもらえないという現実に目を向けたことでしょう。
そしてユヌスは寄付ではなく、ビジネスとして、貸し手と借り手の利益、社会的な利益のすべてを追求したのです。
グラミン銀行は、通常の銀行とは真逆の発想でつくられた銀行です。普通は借り手が銀行を訪ねますが、グラミン銀行では銀行員が村に出向いて借り手を探し、一人ひとりと信頼関係を築きながら自立を支援しました。
土地を持たず、お金に触ったことさえない人、読み書きのできない人も多く、「彼らにお金を貸しても、どうせ持ち逃げされるだろう」と当初は考えられていました。しかし、その貸し倒れ率(返済されない割合)は驚異の1%以下。ほぼ全員がきちんと返済できたのです。
女性に注目したのも大きなポイントでした。バングラデシュに限らず、お金が手に入ると、男性は自分のことに使い、女性は家族や子どものことに使う傾向にあるそうです。これが貧困の連鎖を断ち切ることにつながったのです。
■グラミン銀行誕生秘話
<STORY 1> バングラデシュが大飢饉に!
1974年、バングラデシュが大飢饉に見舞われた。2年前にアメリカから帰ってきたムハマド・ユヌスは、首都ダッカの鉄道の駅やバス乗り場の周辺に、骸骨のように痩せ細った人たちが続々と集まってくるのを目の当たりにして驚いた。
「一体何が起きているんだろう」。ユヌスは大学の近くにあるジョブラ村を訪ね、貧しい人々の暮らしを間近で見てみようと思った。
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