そもそもこの条約に加盟するために、今回の立法が必要かどうかも疑問の声がある。対象となる犯罪は676種類と政府は言い張っていたが、それでは多すぎると批判されると277まで減った。「組織的犯罪集団」に限るといいながら、正当な活動をしていた団体でも「性格が一変すれば対象になる」と説明し、市民団体などから心配する声があがっている。

■南スーダン「撤収」の理由は?

 南スーダンの国連平和維持活動(PKO)への陸上自衛隊の部隊派遣も、議論がかみ合っていない。

 自衛以外の武力行使を禁じる憲法9条の下、自衛隊が紛争に関わらないようにするために、PKO参加5原則が定められている。日本が2012年から参加している南スーダンでのPKOがこの原則に合っているか、強い疑問があった。

 南スーダンの情勢は悪化し、事実上の内戦状態にある。自衛隊が活動する首都ジュバも、昨年7月に政府軍と反政府勢力の大規模な武力衝突が発生。国連は現地の情勢について「ジェノサイド(集団殺害)になる危険性がある」などと警告していた。それなのに日本政府は昨年11月、「安全保障関連法」に基づく駆けつけ警護などの新任務を部隊に付与し、自衛隊が武器を使う可能性が広がっていた。

 情報公開請求で明らかになった現地の自衛隊部隊の「日報」は、昨年7月のジュバでの武力衝突を「戦闘」と記しており、PKO参加5原則に適していないと問題になった。ところが稲田朋美防衛大臣はあくまで「戦闘」と認めず、「憲法9条上の問題になる言葉は使うべきではないことから、武力衝突という言葉を使っている」と説明してきた。これが、「参加ありき」で現状を判断していると非難された。

 このように、治安の悪化を日本政府が過小評価しようとするのは、そうでなければ憲法9条との兼ね合いで、部隊の即時撤収が迫られるためと見られていた。

 そんな中で安倍首相は3月、部隊を5月末に撤収させる方針を明らかにした。ところが、政府は、撤収理由は「一定の区切りがつけられるから」で、「治安の悪化」は要因ではない、と言い張っている。これこそ政府に都合のいい言葉で、現実とはかけ離れている。

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