昨年12月に行われた、日露首脳会談で合意した北方領土の「特区」構想。日本の「本命」である返還や平和っ条約締結の可能性は高まっているのだろうか? 毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、朝日新聞政治部・小林豪さんの解説を紹介しよう。
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安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領は昨年12月中旬、山口県と東京都で会談し、北方領土(北方四島)で「共同経済活動」を行うための準備を始めることで合意した。今まで立ち入りが制限されてきた日本企業が四島で活動できるようにする構想だ。
第2次世界大戦をきっかけにソ連(現在のロシアなど)に占領された四島は、日本とロシアの両国が「自国の領土」と主張している。両国はこの領土問題を解決し、平和条約を結ぼうとしてきたが、今回の首脳会談でも互いに譲らず、進展はなかった。
ただ、共同経済活動を目指すことでは合意した。現在、四島にはロシア人がロシアの法律のもとで暮らしている。ここに日本人がそのまま入れば、ロシアの法律に従わざるを得ず、結果的にロシアの主権(ロシア領であること)を認めることになる。そのため、日本政府は日本人や日本企業の渡航を制限してきた。
しかし、ロシアの法律とは異なる「特別な制度」をつくり、四島を特区のように位置づければ、両国の立場を害さないまま日本企業が活動できる。四島で日本の経済的な存在感が高まれば、ロシアに対して領土の返還を求めやすくなる─。共同経済活動には、そんな日本側の狙いがある。首脳会談で両国は、漁業や観光、医療、環境などの分野で準備を進めることで一致した。
しかし、その前提となる「特別な制度」づくりは簡単ではない。実は1990年代後半にも両国は同じような構想を検討したが、立ち消えになったことがある。日本企業が活動するには、税金の納め方や犯罪者の罰し方などさまざまなルールが必要で、当時は両国が納得するしくみを見つけられなかったからだ。
ロシア側はいまも自国の法律を原則とする考えで、日本側と認識のずれが残ったままだ。今後、制度づくりが再び行き詰まるようであれば、日本の「本命」である北方領土の返還や平和条約の締結も、さらに遠のくことになりかねない。(解説/朝日新聞政治部・小林豪)
【キーワード:北方領土】
北海道の北東に連なる択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島を指す。第2次世界大戦末期からソ連軍が侵攻・占領し、住んでいた日本人は追い出された。現在は元島民が四島を墓参りなどのためにパスポートやビザなしで訪問できる制度がある。昨年12月の首脳会談では、元島民がより訪問しやすいよう、制度を改善することでも合意した。
※月刊ジュニアエラ 2017年3月号より