今年9月15日に、国内33番目の国立公園となった「やんばる国立公園」。しかし、政府は米軍のために、森を切り裂いて「ヘリパッド」をつくろうとしている。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、朝日新聞編集委員・野上隆生さんの解説を紹介しよう。
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ぼくはノグチゲラ。褐色の服に赤い帽子が似合うだろ? 世界中で沖縄本島の北、やんばるの森だけにすむキツツキさぁ。
国の特別天然記念物、国内希少野生動植物種、絶滅危惧・A類と、最上級の肩書がいくつも付いているから、絶滅の崖っぷちにいる鳥だってわかってもらえるよね。
ぼくらが暮らすやんばるの森が9月15日、ようやく国内33番目の国立公園になった。次は世界自然遺産への登録も目指すんだって。
うれしいかって? いや、ぼくはすっかり戸惑っている。だって、ぼくらが暮らす森でいま、一大事が起きているんだ。
国立公園なら開発が厳しく規制される。これで森の乱開発におびえずに暮らせると、本当なら仲間と木をつつきあって大喜びしたいところ。
ところが、今回国立公園に指定された森の近くで、この夏からチェーンソーの金切り声や倒れる木の悲鳴が聞こえ始めた。
国立公園をつくった政府が、かたやアメリカ(米)軍北部訓練場内の森を切り裂き、「ヘリパッド」というヘリコプターの着陸施設をつくるんだって。何と、米軍のために。
ヘリパッドと作業道建設のために、砂利を積んだダンプが日に何十台もやってくる。重機運搬に自衛隊の大型ヘリまで飛んできた。そして、森の木が2万4千本も切り倒されたんだ。
そこはぼくら以外にも、ヤンバルクイナやイボイモリ、リュウキュウヤマガメなど生き物で大にぎわいの森なのに。
別の恐怖体験をした仲間もいる。垂直に離着陸する米軍の輸送機オスプレイが、巣があるイタジイの古木の上を4年前から飛び回っている。
機体が見える直前、森中が震える。そして耳をつんざく轟音。ひどい低周波音で飛び去った後も頭が痛い。機体から出る排ガスの下降気流も草を焦がすほど高温で危ないそうだ。
全6カ所のヘリパッドのうち2カ所は完成し、オスプレイが利用している。全部完成すればもっとオスプレイが来るだろう。ぼくらはもうここで暮らせなくなるよ。
森やぼくらを守ろうと、各地から集まって抗議してくれる人間もいるけど、警察の大部隊に押しのけられてけが人も出た。
なぜ、こんなことになるの? 人間は地図に線を引くように森にも勝手に線を引く。こっちはやんばる国立公園、あっちは米軍北部訓練場って。
でもね、ぼくらにはそんな線は見えないし、意味はない。わかってほしい。全部つながった、一つの森だってことを。(解説/朝日新聞編集委員・野上隆生)
※月刊ジュニアエラ 2016年12月号より