強いグリーバンスを抱えた人々は、同じような思いを抱えた人と団結する。それは、同じ宗教や民族、出身地など、同じアイデンティティー(自己認識)を持つ人であることが多いんだ。日本はほかの国に比べると、特定の宗教や民族への意識が薄いので、こうしたテロの背景を想像しにくいかもしれないね。
9・11の首謀者といわれるオサマ・ビンラディンの例を見てみよう。彼はサウジアラビアの大富豪の生まれで、厳格な「イスラム原理主義者」だった。1979年にソ連(現在のロシアなど)が隣国のアフガニスタンに侵攻したときは、アメリカの支援を受けてソ連軍と戦い、迫害されて難民となったイスラム教徒を救うための活動もしていた。
しかし、90年代初めの湾岸戦争後にアメリカ軍がサウジアラビアに駐留するようになると、アメリカを相手にした戦いに転じ、テロ組織アルカイダの指導者として、各地でテロを起こすようになる。彼のグリーバンスは「イスラム教の聖地がある自国に、キリスト教徒の軍の基地をつくられたこと」だったといわれる。熱心な信者だったので、その思いは人一倍強かった。彼にとってのテロは、尊いイスラム主義のための「正義の戦い」だったんだ。
【「テロ」はこうして起きる】
<step1 グリーバンスが生まれる>
日常生活で不満に感じることは、誰にでもあるはず。でも、それがあまりにも不平等だったり、つらく苦しいものだったりしたら? こうして積み重なった不満や恨みのことを、英語で「グリーバンス」というよ。
<step2 横につながる>
今置かれている状況を何とか変えるため、まずは、いろんな手段で声を上げる。同じようなグリーバンスを抱えている人、共感してくれる人が仲間になってくれたら、もっと心強いよね。
<step3 要求運動を行なう>
いきなり人を傷つけたり、殺し合ったりしたいという人は、まずいない。最初は相手に対して「こんなひどい仕打ちはやめてほしい」と言葉で訴えるだろう。もしこの時点で聞き入れてもらえれば、グリーバンスは解消されテロは起こらない。
<step4 テロを実行する>
しかし、要求を聞いてもらえず相手にもされないと、グリーバンスはどんどん膨らみ、やがて集団の一部は戦闘行為に出る(テロリスト化する)。「私たちは正義の名の下に戦うのだ!」と、市民を巻き込んで無差別テロを起こす。
<step5 新たなテロを生む>
「テロリスト」のレッテルを貼られると、テロを受けた側から反撃を受けることも。グリーバンスは消えないばかりか、さらに増殖して新たなテロを生む悪循環に。一方で、テロが「成功」すると革命となる場合もある。