世界中で続いている新型コロナウイルスとの闘いで、重要な役割を担っているのが、いろいろな現象を数学(算数)の式で表した「数理モデル」だ。感染者数の予測や対策は、数理モデルを参考に打ち出されている。感染症数理モデルの計算は非常に複雑だが、基本となる考え方は、算数は得意じゃないという人でもわかる。小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」9月号では、厚生労働省クラスター対策班のメンバーを務めた西浦博・京都大学大学院医学研究科教授の監修で、数理モデルについて解説した。
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感染症の原因は、ウイルスや細菌などの病原体だ。麻疹(はしか)は麻疹ウイルス、インフルエンザはインフルエンザウイルスが引き起こす。このとき、人から人への感染のしやすさ(うつりやすさ)が問題となり、感染力という言葉がよく使われる。例えば、麻疹ウイルスは感染力が非常に強く、インフルエンザウイルスはそれほど強くない、といったように。
感染力は、理論的には「基本再生産数」で測られる。aウイルスによるAという感染症があるとしよう。ある集団に、Aの感染者が初めて入り込んだとき、その感染者の体内でaウイルスが退治されて免疫ができるまでに、免疫を持たない集団の中で、何人に感染させるかを数で表したものが「基本再生産数」だ。この数値はウイルスの種類や流行する地域の人口等によって違い、数値が大きいほど感染力は強い。麻疹の基本再生産数は8~20、インフルエンザは1~3、新型コロナウイルスは1・5~5・5程度が多い。
新型コロナウイルスのニュースでは、「実効再生産数」という言葉も使われている。実際の社会では、病気が治って免疫ができた人が増えたり、人々が外出を控えて人と会う機会を減らしたり、マスクをしたりすることにより、基本再生産数どおりに感染は広がらない。そんな中で、1人の感染者が何人に感染させるかの平均を、基本再生産数と同じように数で示したものが、実効再生産数だ。
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