孔子の教えをまとめた「論語」は、「仁(=思いやり)」を理想の道徳とし、生き方の指針となる言葉の宝庫だ。苦しんでいる人の導き方や、苦境に立たされたときの責任の取り方など、迷える状況におかれた現代の子育てにも役立つ言葉がたくさんちりばめられている。親の悩みに対する処方箋として、中国文献学者の山口謠司先生が、論語の格言を選んで答えるコーナー。今回は、「子どもが不登校になったときの対処法」について聞いてみた。
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【相談者:12歳の娘をもつ50代女性】
小学6年の娘が不登校です。男子児童の嫌がらせをきっかけに、クラスに居場所がなくなり、どうしても学校に行く気になれないまま半年が過ぎてしまいました。このまま甘やかして社会の落後者にならないか心配です。親として、娘にしてあげるべきことは何でしょうか。
【論語パパが選んだ言葉は?】
・危邦には入らず、乱邦には居(お)らず (泰伯第八)
・汎(ひろ)く衆を愛して仁に親しみ 行いて余力有らば、則ち以て文を学べ (学而第一) ほか
【現代語訳】
・危険の兆候のある国には足を踏み入れず、無秩序な国からは立ち去る。
・人々と広く交際しながら人格者に親しみ、余裕があれば学問を学べ。
【解説】
親がしてあげられること。それは第一に、娘さんの学校での環境を安心して学習できるものにしてあげることです。義務教育課程において、学校内での嫌がらせやいじめは必ず是正しなくてはいけませんが、教職員がどれだけがんばっても、環境が良くならないこともあるでしょう。
孔子は、そういう状態のときにはどうすればいいのかについて、こう答えています。
「危邦には入らず、乱邦には居らず」
これは「自分の身を守るためにはどうすればいいか」を教えるために弟子に言った言葉です。
「自分の身が危険にさらされるような、正しい道が行われていないところには行かない、すでに秩序が乱れて、正しい道が行われていないところには長く滞在することはない」と言ったのです。
そんなところには、行く必要ありません。登校拒否することは当然です。孔子はこんなことも言っています。
「邦(くに)に道無きに、富み且(か)つ貴きは、恥なり」
「きちんとした道徳が行われていないところで、経済的に豊かだったり、高い地位にいたりするのは、人として恥である」と。嫌がらせやいじめが横行する学校の校長はじめ教職員には、子どもの声を親身になって受け止め、誠意をもって対応してほしいと思います。
ところで、小学6年生から学校に行かなくなった娘さんをこのまま放置しておくのは、よくありません。他の学校に転校できるように教育委員会にお願いしてみることはできませんか?
それが難しい場合は、塾に通うなどして、勉強を続ける方法をすぐに考えてみてください。
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