■合否以上に価値ある受験にするために

 それだけ頑張っても、中学受験における第1志望校の合格率はわずか3割。大学受験や高校受験に比べても格段の低さだ。

「第1志望合格を『受験の成功』とするならば、7割の子は『失敗』に終わる。中学受験の経験を『失敗』にしてはあまりにもったいないです。だからまず、第1志望以外にも子どもが輝ける場所を見つける。受験までのプロセスで親子が共に成長するために、塾や成績より大切にする家族の軸を持つべきです」

 伊藤さん自身は、第1志望の合格以外にも中学受験をする価値はたくさんあると考えている。一つには、良質の学びを経験できることだ。

「首都圏だけで200以上の中学校が切磋琢磨して良問を作りあげています。国語では読書の魅力を実感できる作家の文章や、多様性やSDGs(持続可能な開発目標)といった現代的な問題について触れられます。算数は世界に誇れるレベルで、思考力を育む素晴らしい問題が多い。小6の終わりには、知的な成長に目をみはると思います」

 そしてもう一つ、伊藤さんが重視しているのは「自分の人生を選択する」という体験だ。

「人生において、自分に適した環境はどこなのか、過ごしたい未来はどこにあるのかを考え選ぶこと、そこに中学受験の価値があります。親子で検討するにしても、子どもなりの考えや決断を無視しないでほしいと思います。自分が決めた、主体的に選び取ったという経験は、大学受験や就職活動でも大いに役立つし、今後の人生の可能性を豊かにします」

■「一人の人間として子どもを尊重する」とは

 だが、注意点もある。大人はつい「自分の定めた目標なら、努力できるはず」と思いがちだ。しかし、親が満足する努力のレベルに達することができる子どもは多くはない。

「大人の目にどう映ろうと、その子はその子なりに頑張っています。『頑張りたくても頑張れない』という状態も丸ごと『頑張っている』と認めてほしい。そのうえでわが子に寄り添い、コミュニケーションをとり、よりよいやり方を一緒に考えて伴走する。それは子どもを甘やかすことではなく、一人の人間として尊重することです。頭ごなしに指示されているうちは、けっして自立できないのが子どもなのです」

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