「物事を見極めるためにはあらゆる面を明確に見ること、耳に入る情報はその真偽に惑わされないこと、どんな人にも温厚であること、容貌は恭しくあること、言葉には誠実で、仕事は慎重、疑問はしかるべき人に質問すること、一時の怒りがその結果として生むであろう困難な事態を思念すること、利得に前にしては道義に適っているか吟味すること」という意味です。
もちろん、常にこうして自分を客観視することはできません。ただ、この言葉が、2500年前から伝えられているのには、やはり意味があるのです。
相談者さん、娘さんとの関係をよくしたいのなら、まず、ご友人の話を「嘘をついているのでは?」と疑うより、その人にうまくいく秘訣を尋ねてみてください。
そして「短気でよく怒鳴る」ことが原因であると思うなら、それを直し、自分の生活態度を「九思」の面から思い直してみましょう。
孔子にも、娘がありました。名前もわかりません。孔子との関係がどうだったのかもわかりません。ただ、大事に思っていたことは確かです。孔子は、弟子の公冶長(こうやちょう)に、自分の娘を嫁がせています。一度無実の罪で牢獄に入れられたことがあった公冶長ですが、恥を忍ぶ慎ましやかな性格だったので、孔子は結婚を許したのだそうです。
12歳の娘さんとともに、父親である相談者さんも、成長の過程にあると思ってがんばってください。娘さんを変えることはできません。対人関係をよくするためには、自分が変わるより方法は他にないのです。
【まとめ】
娘さんは変えられない。しつこく関わろうとせずに、「九思」を意識しながら、自分の態度を変えてみよう
山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『ステップアップ 0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。母親向けの論語講座も。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。
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