幼少期の英語教育は、大人が英語を学ぶ方法と同じわけにはいきません。『AERA English特別号「英語に強くなる小学校選び2022」』では、言語に敏感な幼児期に取り組みたい学習や目標設定について、バイリンガル教育の専門家にお話を伺いました。
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教材開発などを通じて、30年以上にわたりバイリンガル教育に携わる船津洋さん。教育者、言語学研究者としての経験と知識から、「幼児期の英語教育の目標」として、真っ先に「聞く力」の育成をあげる。
「3、4歳の子どもの発話能力は母語においてすらあやふやです。英会話教室などで話す練習を始める前に、まずは聞いたことを日本語に訳さず、そのまま英語で理解する力の習得を目標にしてください」
大人の英語学習者が耳から入った英語を訳さず理解できるようになるには、かなりの時間と努力が必要になる。その理由は、日本語の回路が確立された脳には、英語を母語のように習得するための“知識”が浸透しづらいからだ。これらの知識は言語学用語でシンタクス(無意識で使える文法)やレキシコン(意味や活用とセットになった語彙の総合情報)と呼ばれ、柔軟な脳を持つ未就学児は、英語の「音」を大量にインプットすることで、それらを身につけることができるという。つまり、日本語を母語とする人が「て・に・を・は」を無意識に使えるように、英文の語順や時制、動詞と前置詞の組み合わせといった複雑なルールも使いこなせるようになるというわけだ。
「学校で習う文法には無限に例外があって、すべてを暗記することは不可能ですよね。いつまでたっても終わらない学習の世界に足を踏み入れるより、幼児期にシンタクスやレキシコンを育てようというのが、私の考えるバイリンガル教育です」
■英語を聞き続けて「必要な言語」と認識
幼児期にインプット学習に取り組むことは、脳に本来備わっている「言語習得機能」を刺激し、スイッチを入れることにもつながる。インプットの方法は、耳からと目からの二つに大別できるが、未就学児の場合、メインは耳からのインプット。船津さんによると、音を聞き分ける力は小さい子ほど優れており、母語の音韻知識が定着するにつれ、脳は英語を「自分には関係のない言葉」として関心を示さなくなる傾向があるという。
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